備後地域で愛される逸品を知る。

2024.02.16 2024/04/11

広島屈指のぶどう産地、沼隈の地ワイン【ヤマソネワイン】

ワインの品揃えが豊富!ぶどうの産地のお酒専門店「田中商店」

広島県福山市の南端に位置する沼隈町。
ここで栽培される福山特産「沼隈ぶどう」は広島県最大の生産量を誇ります。
瀬戸内特有の温暖な気候に恵まれた沼隈町では、60年程前からぶどう栽培が行われるように。当初、数軒のみだったぶどう農家は次第に数を増やし、昭和40年代半ば頃からは本格的な栽培を実現しようと、町をあげて高台に広大なぶどう団地が整備されます。
農家の努力によって育まれた沼隈ぶどうは、大粒な実と抜群な甘さが自慢で、多くのファンが収穫のときを待ちわびています。

広大な土地に広がる葡萄畑
一面広がるぶどう畑。
沼隈ぶどうは福山市を代表する特産品です

その沼隈ぶどうを使った、軽やかな口当たりのワインがつくられていると聞き訪れたのは、創業100年以上の歴史を持つ「田中商店」さん。ここ沼隈町で調味料や生鮮食品を扱う日用品店として商売を始め、現在ではお酒の専門店として、中でもワインの品揃えが群を抜いていることで有名です。
お店に入ると、まず正面の壁一面を占める大きなワインセラーが圧巻。他にも、様々な銘柄のワインが所狭しと並び、また日本酒の品揃えも豊富。お酒好きの方ならつい長居してしまいそうな空間です。

田中商店店舗外観写真
白い建物に青い「たなか」の文字が目印
店内に並べられた沢山のワイン
店内にはこれでもかと並ぶ沢山のワイン!
たくさんの銘柄の日本酒が並ぶ写真
日本酒のラインナップも豊富!

「ここ2、3年は、ナチュラルワインへの注目度が増していて、特に20代から30代の自然派思考が強い方がよく足を運んでくださいます。つくり手のこだわりがそのまま反映されるナチュラルワインは、できあがるまでのストーリーも一緒に楽めるとあって人気です」

そう話すのは、田中商店4代目の田中靖啓(たなかやすひろ)さん。ワインに関する知識が豊富で、なおかつ、それをつくり手の想いとともにお客様にわかりやすく伝える田中さんのもとには、週末ともなると県内外問わず多くのお客様が集まります。

沼隈ぶどうを使った「ヤマソネワイン」誕生の理由

その田中さんが30歳を目前に販売したのが、今回ご紹介する『ヤマソネワイン』。沼隈のぶどう「マスカットベリーA」を使用した地元の逸品ワインです。

お皿にもられたブドウ
そもそもなぜ商店がワインづくりをしようと思ったのでしょうか

「今もそうなんですが、うちのお店では昔から野菜や果物も取り扱っていて、夏場には沼隈ぶどうも販売しています。ご自宅用から贈答用まで、最盛期には全国から1ヶ月で1,000ケース程のご注文をいただいています。そのお客様たちから20年程前、『冬場にも、ぶどうに変わるような商品がほしい』と声をいただいたのをきっかけに、ワインづくりを始めました

ワインといえば山梨県や長野県などの信州地方でつくられるのが一般的だった当時、もちろん、地元の沼隈ぶどうを使ったワインはなかったといいます。

「先代である父は大反対だったんです。その頃は、お店で年間10本程しかワインが売れてなかったので当然ですね(笑)。でも、沼隈ぶどうの美味しさはよくわかっていたので、当然いいワインができると私には確信がありました。それに、5年後、10年後のことを考えたときに、その選択しかなかったという理由もあります」

インタビューに答える中商店4代目の田中靖啓さん
田中商店4代目の田中靖啓さん
素晴らしい先見の明をお持ちだったのですね

1989年から段階的に実施された、酒販免許の規制緩和。それまで「酒屋」でしか購入できなかったアルコール類が、大型のディスカウント店やスーパーなどでも手軽に買えるようになったことで、地域の御用聞きでもあった小売店は大きな打撃を受けます。もちろん田中商店も例外ではなかったそうです。

「このままだと、近いうちに店をたたむことにもなりかねない状況でした。『なんとか生き残る方法を』、と考えていたときでしたので、ワインづくりは店の存続を掛けた一手だったんです」

そこから、地元沼隈のぶどうを使った、田中商店のワインづくりがスタートします。

委託醸造によりワインが完成!沼隈を代表する地ワイン

とはいえ、販売のプロではあっても、ワインづくりに関しては初心者。しかも、ぶどうはあっても醸造の施設がないため、委託醸造を決めたといいます。ただその頃は、ぶどうの産地である信州地方にさえ数えるほどしか委託醸造を引き受けてくれるワイナリーはなかったとか。
そこで、伝(つて)を頼りなんとか紹介してもらったワイナリーに、田中さんは意を決して連絡を入れます。

「それが山梨県の『日川中央ぶどう園』。家族でぶどうを栽培しながら、ワインづくりも行う農家さんです。そこへ突然、広島の片田舎から『ぶどうを送るからワインをつくってほしい』と電話をかけたので、最初はかなり怪しまれましたね(笑)。でもその後、実際に足を運んで経緯を説明すると、私の本気度が伝わったようで、醸造を引き受けてくれることになりました」

日川中央ぶどう園の看板「日川中央葡萄酒株式会社」と書いてある
まさに運命の出会い!

そして、次の夏から本格的にワインづくりが始動。
幸い、地元のぶどう農家も田中さんの挑戦に好意的な方が多く、ワイン800本分のぶどうの調達はスムーズに進みます。選んだぶどうは、もちろん沼隈を代表する「マスカットベリーA」。この品種は国内の赤ワインにも多く使われますが、そもそも食用として栽培されていたものなので、その甘さは抜群です。その後、山梨に送られたぶどうは順調に醸造の過程を進み、ついにワインが完成します。

「『日川中央ぶどう園』は、沼隈ぶどうが持つ『香り』や『甘さ』などのポテンシャルを、そのまま活かして醸造してくれました。おかげで、できあがったワインはベリー系の香りと果実味の強い、私がイメージしていた通りのものに。しかも、どなたにでも親しんでいただける『口当たりが軽やかな、飲みやすい』ワインに仕上がりました」

ヤマソネワインのボトル全身写真
沢山の人の協力と田中さんの熱い想いのこもったワインがついに完成!

地元メディアに取り上げられたこともあり、初めてつくったワインは数週間で完売。大きな評価を得ます。3年目からは、後継者がいないぶどう畑を借り受け、家族や親戚の手も借りながら、自ら栽培も手がけるようになり現在に至ります。

「今のぶどう畑も地元の方から借り受けたものですが、元の所有者が60年以上もいっさい化学肥料も除草剤も使わずに、有機栽培を行なっていた素晴らしい畑なんです。おかげで、ぶどうの樹自体が土にしっかりと根を張り、良いぶどうが育っています。
剪定や収穫は大変ですが、10年程前からは、ワインづくりや農業に興味のある方にもお手伝いしていただいています。近頃はSNSで畑の様子も伝えていますので、親子連れや、ワイン好きの方なども来られます」

葡萄畑の手入れをするために集まった人たちの集合写真
ぶどう畑を通して色々な人とのつながりも生まれているんですね

『ヤマソネワイン』の解禁日は、当初から毎年12月10日。リピーターも多く、翌年の春先には完売するそうです。中には、10本、20本と購入する方もいて、今や沼隈を代表するワインとして定着しています。

ヤマソネワインが店頭で販売されている様子
今ではファンが沢山!
皆が楽しみにしているワインです

「始めた頃から、地域に密着した『地ワイン』をつくりたいと思っていましたので、近所のおばあちゃんたちが『今年も待っていたよ』と購入してくださると本当に嬉しいんです。地元の方に育ててもらったワインと言ってもいいかもしれませんね。
もし、県外の方が手に取ってくださることがあれば、このワインを通して沼隈ぶどうの美味しさや、沼隈の町のことも思い浮かべていただければありがたいです

ぶどうの香りとほのかな甘味。やさしい口当たり「ヤマソネワイン」

さて、『ヤマソネワイン』のボトルを手に取ると、その色鮮やかなラベルが印象的です。これは、地元のアーティストが、ぶどうの収穫期である夏のギラギラと輝く太陽をイメージし描いたものだとか。待ちに待ったぶどうの収穫を、満面の笑みで迎えるような嬉しさも伝わってくるデザインです。

では、沼隈ぶどうからつくられた『ヤマソネワイン』、いただいてみます。
グラスにゆっくり注ぐと、ワインの色はロゼに近い赤色。透明感があり、飲み心地の軽やかさを連想させます。ふわっと広がる香りは、例えるなら完熟したいちごのような印象。

ワインをグラスに注いでいる様子
グラスに注いだ瞬間良い香りが辺りを包みます

さて、一口。
まず、一瞬にして、ぶどうの香りとほのかな甘みで満たされ、それに続くいちごを感じさせるベリー系の香り。赤ワイン特有の渋みはほとんど感じられず、軽やかで優しい口当たりです。飲み干した後も、口の中に残るのは柔らかな香りのみ
赤ワインというと重たく渋いものも多く、どちらかといえばワイン上級者が嗜むイメージですが、『ヤマソネワイン』は初心者でも構えず気軽に楽しめるワイン。地元のおばあちゃんたちに人気があるのも納得です。

料理の組み合わせに関しては、その軽やかな口当たりゆえ、和食、洋食問わず、どんな食事にも合わせやすい印象。記念日などの特別なシーンでいただくのはもちろんですが、気軽なテーブルワインとして普段の食卓で楽しむのもおすすめです。香りを存分に楽しみたいなら、ワインだけをゆっくりといただくのも良いですね。

グラスに注がれたワインとピザ
色んな楽しみ方を試してみて下さい!

最後に、田中さんにワインを楽しむコツを伺ってみました。

「おいしいと思うワインに出会ったら、できればその銘柄を長く楽しんでいただきたいですね。同じワインとはいえ、その年のブドウの出来栄えによって、味も香りも微妙に変化します。その変化も含めて楽しむのもいいものです。今年のワインは最高、と思っても、来年はもっとおいしいワインに仕上がっているかもしれない。
農家が丹精込めて栽培したぶどうの特徴を最大限活かして、醸造家はおいしいワインをつくろうと努力しています。ワインをいただくときに、その過程にも思いを馳せてると、また違った楽しみ方ができるかもしれませんね」

インタビューに答える田中さん
変化も含めて楽しむ…
ワインを楽しむのに大事なポイントかも

つくり手とお客様を結ぶのも自分の役割だと話す田中さん。ワインに込めたつくり手の想いをその味や香りと共にお客様に伝え、それを楽しんだお客様の声をつくり手にも返していく。両者の声を繋ぐことで、さらに多くの人に親しまれるワインが生まれるのだと感じます。

さて、『ヤマソネワイン』ですが、田中商店の店舗及び公式ホームページで購入することができます。20年以上前から沼隈ぶどうでつくられている「地ワイン」、ぜひ全国の皆さんにもお楽しみいただければと思います。

※季節商品のため、売り切れの場合があります。予めご了承ください。

お店の紹介

田中商店
住所:〒720-0402 広島県福山市沼隈町大字中山南719-1
電話番号:084-988-0630

ホームページ