亡き先代、師匠の跡を継ぐ!「はっさく大福」考案者の味
冬になると広島県尾道市では、鈴なりの柑橘の木をよく見かけます。
年間を通して温暖な気候に恵まれている尾道市は、古くから柑橘類の栽培が盛んで国産レモン発祥の地でもあります。
そんな柑橘の木が多い尾道市では様々な種類の柑橘が収穫できます。
その中でも尾道市を代表する柑橘の一つに、尾道市因島(いんのしま)発祥の「八朔(はっさく)」があります。
はっさくは皮が厚く、剥きにくいのが特徴です。しかし独特のほろ苦さと適度な甘み、そしてサクッとした食感がほかの柑橘にはない食べ応えで多くの人から愛されています。
この因島発祥のはっさくを大福の中に閉じ込めた『はっさく大福』を考案したのが、昇福亭さんの先代のお師匠さんでした。
因島出身の先代は、その師匠の下で『はっさく大福』をはじめとする餅菓子の修行を続け、2002年に尾道市千光寺公園の中腹に『はっさく大福』をメインとする古民家茶屋「昇福亭」をオープンされました。
その頃はまだ『はっさく大福』を知る人は少なく、「昇福亭のはっさく大福が美味しい!」と評判が評判を呼び、いつしか尾道土産の定番商品となっていきました!
今回は尾道を代表するお土産、昇福亭の『はっさく大福』をご紹介します!
師匠の代から受け継がれた、素材と味へのこだわり
『はっさく大福』は、はっさく・餡子(あんこ)・餅生地で構成されるシンプルな作りです。
シンプルだからこそ素材へのこだわりは逸品!それぞれの特徴についてご紹介しますね。
昇福亭さんが餅に使うもち米は、師匠がほれ込んだ広島県三原市久井町のお米です。
三原市久井町は三原の中でも寒暖差が激しく、この土地で育てられたもち米は、粘り・コシがあり甘さが強いのが特徴です。
そしてこのもち米を蒸す際は、季節や気温に合わせて温度を微調整し、餅をつくときは水を一切入れずにつくのだそう。そうすることで餅の中の水分量を調整し、もち米本来の甘さを引き出し、より米の味が濃厚に仕上がるそうです。
昇福亭さんのお餅は汁物に入れても溶けにくく、味も美味しいので餅単品でも多くのファンがいらっしゃるんですよ♪
続いて『はっさく大福』に使われる餡子ですが、昇福亭さんの餡子はなんと言っても甘さ控えめ!
その理由は餅生地のもち米本来の甘さとはっさくの程よい酸味を引き立たせるためなんだそうです。
もちろん豆にもこだわり、北海道産の豆のみを使用されています。
最後に『はっさく大福』のメインであるはっさくは、もちろん因島産!
師匠の代から変わらず同じ農家さんから仕入れているこのはっさくは、品種改良等されていないまさに元祖のままのはっさくです。
このはっさくの特徴は、はっさく独特の苦みがあり水分量が控えめでサクッとした食感をしています。
近年市場に出ている品種改良されたものは、苦みが軽減されみずみずしくて、とてもプリッとした歯ごたえなので、そのまま食べるのであれば美味しいのですが、大福にしたときにどうしても水分が出てきてしまい、餡子と混ざってべちゃついてしまいます。
せっかく餅も餡子もこだわっているのに、はっさくの水分によって台無しにしてしまうわけにはいきませんよね!
だから昇福亭さんは、水分控えめの元祖はっさくを使用し続けているとのことでした。
そしてこのはっさく、果肉だけを使用します。
大福にするためには、このはっさくをひと房ひと房丁寧に、つぶさないように気を付けながら手作業で剥いていくのです!
多い時には一日に100個近いはっさくを剥くそうで、その労力は想像以上に大変とのことでした。
尾道生まれ、尾道育ちの私もおすすめ!昇福亭の「はっさく大福」
さて、餅と餡子とはっさくのそれぞれのこだわりをご紹介したところで、いまだ食べたことがない方はこのミスマッチな組み合わせが本当に美味しいの?と思われるのではないでしょうか。
この昇福亭さんの『はっさく大福』…間違いなく美味しいです!!
尾道在住の私は、15年程前に昇福亭さんのものではない『はっさく大福』を食べた時、全体的に味がバラついていてあまりいい印象ではなかったんです。
でも今回、昇福亭さんの『はっさく大福』を食べて本当に驚きました!!
まず1口目に餅が美味しい!!
お餅ってこんなに味がしっかりして甘いんだっけ!?と思ったほど餅本来の美味しさを感じました。
2口目に餡子とはっさくの味のバランスが最高!!
餡子が甘くないため、いい意味で主張しておらず、はっさくの味を引き立たせてくれているんです。はっさくも嫌な渋みが一切なく、思っていたより苦みも気になりませんでした。
餅と餡子とはっさくがお互い補い合っているのがわかり、咀嚼(そしゃく)するたびに感動する美味しさでした。
師匠、先代、現当主と素材も製法も変えず、ずっと守り続けてきたからこそ味わうことのできたこの感動。
現当主の願いである『尾道の、日本の遺産としてずっと引き継がれるものに』という願いは必ず実ると実感できました。
季節とともに変わる「はっさく大福」の味。半年の期間で楽しんで
私が昇福亭さんに取材に伺ったのは『はっさく大福』が店頭に並び始めた11月中旬だったのですが、本来はっさくを収穫後1~2か月冷蔵庫で寝かせ、追熟します。
11月の『はっさく大福』のはっさくは、その追熟をしていない、まさに初物。
餡子の量で調整はしているものの、追熟していないはっさくは多少苦みが強いのが特徴です。
一方で追熟したはっさくは、酸味が和らぎ甘みが増します。
そのため収穫から1~2か月寝かした1月、2月の『はっさく大福』が一番オススメだそうです! さらにこの時期は、はっさくが少し大きめに入っているのでより“はっさく感”も感じられますよ。
11月から5月末までの季節限定商品である昇福亭さんの『はっさく大福』。
半年間で味の変化を楽しめるところもいいですよね♪
ぜひ好みの時期を探してみてもらいたいです。
日持ちがしないためネットでの販売はしていないとのことなので、冬に尾道に来られる機会があったら、昇福亭さんの『はっさく大福』を忘れずに食べてみてくださいね。