
里山に佇む和菓子屋さん「里山工房 和菓子たむら」
和菓子の中で「三笠(みかさ)」とは何を指すかご存知ですか?
関西では馴染みのある言葉ですが、一般的には「どら焼き」のこと。奈良県にある三笠山のなだらかな形状に似ているという理由から、関西ではどら焼きを「三笠」と呼ぶそうです(※諸説あり)。

さて、その「三笠」がおいしい和菓子屋さんがあるとのことで、足を運んだのは岡山県東部の井原市。
ここは温暖な気候に恵まれた農業が盛んなまちで、中心部から10分程車を走らせると、豊かな田園風景が広がります。夜になると一面の星空を堪能でき、星空保護区に認定されるほど「星が綺麗なまち」としても有名です。

星空が綺麗なのはうなずけます
訪れた「里山工房 和菓子たむら」さんは、そんな里山の風景の中にポツンと佇む和菓子屋さん。
お話を伺ったのは、代表の田村雅博(たむらまさひろ)さん。今回ご紹介する『たむらのみかさ』や、お店の歩みなどについてお話しをお聞きしました。

県外のお客様も足を運ぶ、素材を活かしたおいしい和菓子
そもそも、「里山工房 和菓子たむら」は、いつ創業されたのでしょうか?

インタビューに笑顔で答えてくださいました
「父親の実家であるこの場所で創業したのは、20年程前のことになります。関西で和菓子屋を営んでいた両親がこのまちに戻り、しばらく和菓子の卸業を営んだ後、店を開きました」
関西で長く商売をされていたご両親。どら焼きではなく「三笠」という名前が付けられているのは、そのためだそうです。夏に加わるラインナップの中に、京都の郷土菓子である「水無月」があるのも納得です。
『たむらのみかさ』をはじめ、生菓子や団子、大福など、季節ものまで合わせると常時20種類ほどの和菓子が楽しめる「里山工房 和菓子たむら」。週末ともなると、県内はもちろん、県外からもお客様が訪れるとか。

どれも気になります


「数年前よりインスタグラムを中心にSNSの発信を始めました。そのおかげで、兵庫県からツーリングがてら来てくださる方や、遠方からドライブで立ち寄ってくださる方もいます。それまでは、地元の年配の方がお客様の中心だったんですが、今では若い方もよく来られます」
週に1度配信されるお店のインスタグラムには、美しく、おいしそうな和菓子の写真が並びます。
実は雅博さん、以前は写真関係の仕事に携わっていたとのことで撮影の技術は一流。お客様の中には、毎回の更新を楽しみにしている方もいるそうです。
「インスタの写真や『おいしい』という口コミをきっかけに新しいお客様が増えているのは嬉しいですね」
自然豊かな井原の里山で、地元の素材にこだわり作られている和菓子。そのおいしさが、たむらの評判を揺るぎないものにしているようです。

全て手作業で心を込めて作っています
おいしさの理由、素材の良さとそれを引き出す職人の手仕事
岡山県はそもそも農業が盛んな土地柄。
中でも井原市は、良質な水のおかげで、栽培されるあらゆる作物が滋味深いと言われています。
「井原は水道水にも地下からの汲み上げ水を利用するほど、水が豊富な地域なんです。和菓子の良さは水にも大きく影響されますので、良い水が使えることはありがたいこと。しかも養鶏も盛んですので、良い卵も手に入ります。小麦粉も県内産。特にあんこに利用している『備中大納言』は岡山が誇る希少な小豆なんです」

良い素材に恵まれている地域だからこそ、作り出されるおいしい和菓子。
もちろん、その製法にもこだわっているそうです。
「たむらの和菓子は、製造から袋詰めまで全て手作業で行っています。要となる製造は、職人である父と弟が担当しています」
幼い頃より和菓子職人だったお父様の姿を見て育った、弟の隆志(たかし)さん。
別の店で修行を積んだ後、今ではたむらの職人としてお父様と共に日々和菓子作りに専念しています。
「使用している素材の全てが素晴らしいものばかりなんです。私にできることはその良さを全ておいしさに反映させること。いつも『美味しくなれ!』と願いながら作業を進めています」と隆志さん。
中でも、「備中大納言」と言われる岡山県北部で栽培された小豆を使用したあんこ作りと、手焼きの皮にはこだわっているそうです。

全てにお二人の熱い想いが込められています
この小豆の特徴は、他のものと比べて柔らかく風味が高いこと。前日から浸水した小豆はじっくりと火にかけられ、粒が潰れないようふっくらと炊き上げられます。生産量自体が少なく入手が難しい小豆だけに、手間をかけて大事に丁寧に作業を進めていくそうです。
また、一枚一枚手焼きされる皮はしっとりとした焼き上がりが肝。その日の気温や湿度、季節によっても水分量を微調整しながら、焼き加減も変えていくとか。手作りだからこそ、仕上がりにも細かな心遣いが生きると言えます。
皮とあんこの一体感が織りなす逸品「たむらのみかさ」
さて、実は無類のあんこ好きを称する私、この瞬間をとても楽しみにしていました。
『たむらのみかさ』、いただいてみます。
まず手に取って伝わってくるのが、皮のふわっとした柔らかさ。
半分に割って、一口。

いただきまーす!
一枚ずつ手焼きされている皮がしっとりとしていて、しかも“もっちり”。
包まれたたっぷりのあんこは粒が大きく皮も柔らか、口の中で解けていきます。なにより優しい甘さが小豆の素朴な風味を際立たせています。
そして、皮とあんこが織りなす一体感が絶妙。どちらも『たむらのみかさ』を完成させるために、製法にこだわって作り上げられていることが実感できます。
もちろん、それらの素材の良さも充分に味わえ、間違いなく「また食べたい」と思える逸品です。
そのままでも良し、また苦めに淹れた緑茶と共にいただくのもおすすめ。
お子さんから高齢の方まで、幅広い世代の方々に食べていただきたい三笠です。

「岡山県にはいい素材がたくさんあります。それらを使って、おいしい商品も数多く作られています。でも、控えめな県民性か、その良さを伝えきれていないことが残念なんです。
私たちにできることは、まず多くの方に食べてもらって、おいしさを感じていただくこと。一度口にしたら、きっとわかってもらえるはずです」
家族で営む「里山工房 和菓子たむら」。
雅博さんは、自分たちの身の丈で地道にそれらのおいしさを伝えていきたいと話します。
井原の里山で丁寧に作られる和菓子は、間違いなくこれからも多くの方を笑顔にし、愛され続ける逸品です。
ぜひ皆さんも、『たむらのみかさ』をご賞味ください。

現在、『たむらのみかさ』は通販サイト 楽天市場(ふるさと納税)の他、公式ホームページや下記の店舗で購入できます。
- 岡山県:里山工房 和菓子たむら、天満屋岡山本店、岡山タカシマヤ、遊(Asobi) Café Takagi(JR井原駅構内)
- 広島県:天満屋福山店(不定期)