究極に身体に優しいスイーツ、ハジマリニの「TOFUマフィン」
ここ数年、コロナ禍の影響で、「健康」について改めて考える機会が増えました。手洗いやマスク着用などが定着し、同時に、「健康な身体づくり」のため、これまで以上に食生活を見直す機会も増えたように思います。
毎日口にする「野菜」を選ぶ際、できるだけ生産者の顔が見える地元産のものを選んだり、普段使いの「調味料」も、添加物の使用が控えられているものを常備するようになった、という方も多いのではないでしょうか。
ただこのように、3度の食事については、かなり改善したとしても、これが「おやつ」ということになると、そこまで意識が及んだ方は少ないかもしれませんね。読者の皆さんはいかがでしょうか?
さて、今回ご紹介するのは、そんな方にもぜひおすすめしたい、究極に身体に優しいスイーツです。
訪れたのは、岡山県井原市にある「ハジマリニ」さん。2017年にオープンした、植物由来の材料のみを使用した焼き菓子店です。このお店の看板スイーツでもあり、ここ井原市の逸品でもある『TOFUマフィン』をご紹介します。
植物由来の安心安全な材料へのこだわりは、どうして?
スイーツ、特に焼き菓子と言えば、卵やバター、牛乳などの動物性の材料がベースとなっていることが一般的。逆に、それら全てを使わずに焼き菓子を作るのは無理なのでは、と思っている方も多いのではないでしょうか。ここ「ハジマリニ」の焼き菓子は、全ての材料が植物由来のもの。卵や乳製品は一切使用されておらず、アレルギーや食生活に気を遣う方でも安心して食べることができるスイーツです。
では、なぜ、そのようなスイーツを作るに至ったのでしょうか?
東京生まれ、東京育ちの「ハジマリニ」のオーナー、傍田 玲美子(そばた れみこ)さんにそれまでの経緯を伺いました。
「私も夫も、以前より『食』に関心を持っていました。特に、東日本大震災をきっかけに、食だけではなく、生活全般を見直して、地に足をつけた生活をしたいと思うようになったんです。そもそも2人ともベジタリアンだったのですが、それ以降は、神奈川県で有機農法を本格的に学ぶようになり、ライフスタイルも大きく変わりました。1年ほど経った頃、本格的に農業に取り組もうと、夫の故郷である井原へのUターンを決めました」
2013年、畑を持つご主人の祖父母を頼り、井原市の北部に移住した傍田さんご夫妻。早速、それまで学んできた有機農法で野菜栽培を始めます。
日本古来の種にもこだわり、少量多品目で栽培した野菜は、マルシェなどを利用して販売したそうですが、有機農法の認知度がそれほど高くなかった当時、販路を広げるのにご苦労があったとか。さらに、イノシシなどの獣害にも悩まされたと言います。
「実は、神奈川県で有機農法を学んでいるときに、農園のお取引先に植物性の材料を使った焼き菓子を販売するお店があったんですが、その出会いが『ハジマリニ』の原点になっています。元々、いずれは飲食業にチャレンジしたいという思いもありましたので、有機野菜の販売にこだわるのではなく、『土』によって育まれた植物性の材料に由来したスイーツを作って販売しようとシフトチェンジしました」
元々、お菓子作りに興味のあった玲美子さんと、移住前は長年飲食業に携わっていたご主人。とは言え、本格的にお菓子作りを学んだことがなかったお二人にとって、理想の焼き菓子作りは、大きなチャレンジだったとか。当然それ以来、材料の選択や製法など、長期戦での研究が始まったそうです。
科学の力が叶えた、卵・バター不使用のハジマリニのマフィン
焼き菓子に欠かせない卵や乳製品を使わないとすると、それらの代用はどうしたのでしょうか?また、安心安全にもこだわる焼き菓子を作るには、他にどんな材料を選んだのでしょうか?
「お菓子作りは、実は『科学』なんですよ」という玲美子さんに、『TOFUマフィン』の材料について詳しくお聞きしました。
「マフィンの主な材料は、卵・バター・砂糖・小麦。その中の動物性材料を、どのように植物性の素材と置き換えるかなんです。
まずは、卵。主成分がタンパク質なので、植物性タンパク質である大豆から作られた「豆腐」で置き換えます。バターは「麹」と置き換え。実は、熱した時の香り成分がどちらも同じ化学記号で表されるんですよ。それから、砂糖は麹由来の甘酒を使います。小麦に関しては100%国産で、北海道産、佐賀県産、熊本県産のものを、『しっとりして、なおかつ食べ応えのあるマフィン』に仕上げるために絶妙な配合で使っています。」
井原に移住し、この土地に根ざしたスイーツ作りたいという思いもあり、材料は可能な限り地元のものを選ぶようにしているとのこと。特に『TOFUマフィン』の要となる豆腐は、同じ井原の街にある老舗豆腐店、「野宮食品」さんが昔ながらの製法で作っているものを使用しています。人の手によって丁寧に作られた、大豆の甘味と濃い豆腐との出会いが、『TOFUマフィン』を完成に大きく近づけたとも言えます。
「おいしいお豆腐を作ってるところがこんな近くにあるなんて、とても恵まれてると思います。井原に移住して嬉しいのは、こういった繋がりができることですね。地元の方は、何もない街だとおっしゃいますが、東京育ちの私は、良いものがたくさんあると感じます」
植物性の材料を使うおかげで、お互いの持つ素朴な味わいが、まるでレンガを積み重ねるようにグラデーションとなって美味しさを作り上げていく。『TOFUマフィン』はそんなスイーツだと言えますが、逆に素材選びを一つ間違えると、それが全体の味わいにも大きく影響し、せっかく積み上げたレンガがまるでガラガラっと崩れてしまうようだとか。
「このマフィンなら、皆さんに食べていただける」、そう思えるものが完成するまでには数年かかったそうですが、その苦労は、お客様からの声で報われたと言います。
「素朴な味のスイーツだけに、甘い物好きが多い地元岡山で、受け入れてもらえるかどうか心配でした。でも、実際に食べていただくと、『こんなのがほしかった』『優しい味わいでおいしい』という声をたくさんいただきました。皆さん、こんなスイーツを求めておられたんだなと実感しましたね。ですので、それ以後も、クッキーやタルト、ドーナツといったメニューを増やしていきました。もちろん、それらに使用する油や豆乳も厳選しています」
素材やその配合にも心を配った『TOFUマフィン』ですが、焼き上がりまでの作業も徹底した手作業にこだわっているそうです。スタッフさんも製造に関わっておられ、特に生地の混ぜ方のレクチャーが難しいとのこと。同時に、「焼き上がりの表情」を見ることも、スタッフに伝える大切なポイントだそうです。表面の「かわいらしい」焼き上がり具合や、横から見えるぷっくりした形など、表情を読み取る感覚を身につけることも肝心だとおっしゃっていました。
植物由来の上質な素材だけで作った「TOFUマフィン」
それでは、素材や作り方、全てにおいてこだわり抜いた『TOFUマフィン』をいただいてみます。
見た目は、一般的なマフィンと同じく、きつね色の綺麗な焼き上がり。生地のきめ細かさが見て取れます。
それでは一口。
豆腐のほのかな香りを感じると同時に、優しい甘味が広がります。「素朴な味わい」という表現がぴったりかもしれません。
食感はしっとりして、パサつき感がなく食べやすさを感じます。
バターや卵が入っているマフィンを食べ慣れているので、正直物足りなさを感じるのではと思っていたのですが、軽すぎるわけでもなく、一つで満足のいく食べ応え。
オーガニックのコーヒーや紅茶など温かい飲み物と一緒に、上質な素材をゆっくりと味わいたい、そんなマフィンです。
『TOFUマフィン』という名前ですが、材料に豆腐が使用されていることに気づかない方も多いそう。全ての素材が個性を持ちながらも、バランスを保ちうまく調和しているからだと言えます。
そしてなにより、一番の魅力は安心して食べられるということ。「土」に由来する植物性の材料のみで作られているマフィンは、小さなお子さんにとっては、生まれて初めて「本当の味」を経験できる嬉しいお菓子でもあります。
さて、この『TOFUマフィン』、今回ご紹介したプレーンの他、抹茶とチョコ、紅茶と杏、また季節限定のものなど、常時数種類の味が楽しめます。スタッフさんとの会話の中で、年齢や好みに合わせたアドバイスや、植物由来の材料の説明なども聞くことができ、初めての方でも安心。
自分のために、誰かのために選んだスイーツは、様々な動物が描かれたポップな色合いのラベルや包装紙に包まれ、手に取った方の心を、ほんのり明るいものにしてくれるに違いありません。
「誰かの始まりに、何かの始まりになりたい」との思いから名付けられた店名「ハジマリニ」。ここ井原に移り住み、新しい生活を始めた傍田さんご夫妻は、安心して食べられる、植物由来の材料で作るスイーツの裾野をもっと広げていきたいと話されました。
現在、『TOFUマフィン』は公式ホームページの他、ハジマリニ井原本店、岡山駅近くの奉還町店などで購入することができます。
皆さんもぜひ、素朴で優しい味わいの「ハジマリニ」のスイーツをお楽しみください。