備後地域で愛される逸品を知る。

2023.07.18 2024/04/11

【朗廬の里】炭酸割りが旨い日本酒!爽やかな呑み口

自然豊かな里山で丹精込めて作られる山成酒造のお酒

岡山県井原市にある、自然豊かな里山に建つ酒蔵「山成酒造」さん。
取材に伺った6月は、寒仕込みで造られたお酒が静かに熟成されていました。

山成酒造さんの正面玄関の写真
文久元年(1804年)創業の酒蔵「山成酒造」さん
酒蔵の梁を写した写真
しっかりとした梁が酒蔵の歴史を物語ります

蔵元と杜氏によって守られてきた酒造りは、220年の時を経てもなお、一切の手抜きなし。
その作品とも言える酒の数々は、地元の方たちはもちろんのこと、全国の愛飲家を唸らせています。

そもそも酒造りに欠かせない、良質な「酒米」と「水」。
ここ井原市は、全国第2位の生産量を誇る岡山県の酒米、また、中国山地を水源とした高梁川の支流である小田川の伏流水に恵まれ、さらに星空版の世界遺産と称される国際認証制度の「星空保護区(コミュニティー部門)」に認定された美星町を有し、空気が澄んだ酒造りに最適な環境が揃っています。

酒蔵前の田んぼの写真
酒蔵の前にある田んぼでは、
杜氏たち自ら米作りをされています

今回ご紹介するのは、山成酒造の酒の中でも「逸品」と称される『朗廬の里(ろうろのさと)』。江戸時代から受け継がれる杜氏の技によって丹精込めて造られた、大吟醸原酒です。
その酒造りについて、第14代当主、山成芳直(やまなりよしなお)さんにお話を伺いました。

杜氏の技を次世代へ繋いでいく、当主としての使命

酒蔵内で話をする山成芳直さんの写真
第14代当主 山成芳直さん
いろいろとお話をしてくださいました

江戸時代創業の山成酒造さんですが、なぜこの地で創業されたのでしょうか。

「山成家は古くは、資源の採掘などを営む庄屋でした。その頃は、庄屋が同時に酒造りも行うというのは珍しくなかったようです。しかも、井原の地は、酒米作りも盛んで、極上の水にも恵まれていました。また、なにより「備中杜氏」と呼ばれる、酒造りにおける日本屈指の職人集団がいたんです。彼らは、酒どころである「灘」、「伏見」、「西条」からも請われるほどの腕の持ち主でもありました。それら、土地の恵みと人の技によって、長年旨い酒が造られてきたんです」

その酒は、日本の歴史に名を残す偉人たちにも愛されたと言います。NHKの大河ドラマでも取り上げられた「渋沢栄一(しぶさわえいいち)」、幕末・明治の漢学者「阪谷朗廬(さかたにろうろ)」、文豪「谷崎潤一郎(たにざきじゅんいちろう)」…。
中でも、「阪谷朗廬」は、今回ご紹介する『朗廬の里』の名の由来になった人物です。元々、山成家の血縁にあった「阪谷朗廬」は、今も地元の方から「朗廬先生」と慕われる教育者。一橋慶喜(ひとつばしよしのぶ)の命でこの地を訪れた「渋沢栄一」とも深い交流を結んだそうです。取材でお伺いした、酒蔵横に建つ山成家のご自宅には、方々の書が数多く飾られており、歴史の一幕を垣間見せてくれます。

渋沢栄一直筆の書の写真
すごい…!本物の渋沢栄一直筆の書です

江戸時代から現在まで愛され続ける山成酒造のお酒ですが、これまでご苦労はなかったのでしょうか。

「当主が急逝したり、天災に見舞われたり、危機と呼ばれるような大きな出来事もありました。ですがその度に、必ずと言っていいほど、再び心を奮い立たせるような評価をいただいたり、地域の方々の励ましや支えがありました。井原は、今も昔も「人の温かさ」を感じる土地柄なんです」

現在、東京で会社勤務もする山成さん。会社員として、蔵元として、多忙な日々を送りながらも地域の人に支えられ、「井原テロワール」の実現に力を注いでいます。一旦途絶えてしまった、井原での酒米作りの復活、そして造り手である「備中杜氏」の育成。
「次の後継者に酒造りのバトンを繋いでいく、これが、第14代当主である私の最大のミッションなんです」

井原の地ならではの酒造りを守り、次の世代に承継していく。そこには地域の方はもちろんのこと、「移住者」たちの大きな支えもあるようです。

今もなお、「備中杜氏」の手によって造られている山成酒造の酒。実は筆頭杜氏である、山成遠平(やまなりえんぺい)さんの他はほとんどが移住者だそうです。
「それぞれ、埼玉などで別の仕事に就いていた若者たちです。それまでの仕事を辞め、退路を絶って杜氏の道を選んだ苦労人ばかり。ですので、酒造りにかける意気込みも並大抵のものではありません。杜氏はきつい仕事ですが、それに耐え得るだけの体力も彼らは持っています。普段は菓子職人、ブドウ農家、鍼灸治療師として仕事を持ちながら、杜氏としても働いてくれている多才な職人たちなんです」

ラベルが貼られた商品が並んでいる写真
備中杜氏それぞれが熱い想いを込めて酒造りに励んでいるんですね

杜氏の意気込みを感じる大吟醸原酒『朗廬の里』

その杜氏たちが丹精込めて造り上げた大吟醸原酒『朗廬の里』。どんな酒なのでしょうか。

赤い敷物の上に『朗廬の里』が2本ならんだ写真
大吟醸の原酒とは?
気になります!

大吟醸酒とは、精米歩合50%まで磨き上げた酒米を元に造られた酒のこと。70%、60%とその歩合によって酒の種類が決まり、磨けば磨くほど、雑味のないスッキリとした酒に仕上がります。『朗廬の里』で使われている酒米「山田錦」は、「酒米の王様」とも呼ばれ、大吟醸酒に最も適していると言われています。その米を磨き、最良の水と合わせることで極上の酒造りに取り掛かることができます。

酒造りの工程は「一麹、ニ酛、三造り(いちこうじ、にもと、さんつくり)」。いかに質の良い「麹」を作るかということが肝です。そのため、山成酒造では、日本でも数少ない「和窯」を使って、麹の素となる蒸米を作ります。その巨大な和窯で蒸された酒米の特徴は、表面はかりっと、中はふっくらもちもちに仕上がること。この状態が麹作りに大きく作用するそうです。

斜め上から撮影した和窯の写真
大切な蒸米を作るための「和窯」
時代を超えて大切に使われてきたのを感じます

蒸しあがった米は麹室に運ばれ、いよいよ杜氏たちによる麹作りが始まります。
まず、優れた麹を作るため、蒸米を一粒一粒丁寧にほぐしていく作業が昼夜を問わず続けられます。この時の麹室はまるでサウナのような状態。杜氏にとっては大変な労力と体力を試される作業ですが、酒造りに魅了された彼らの熱意によって、丹念に仕上げられていくそうです。

仕込みをする麹室の写真
杜氏でなければ倒れてしまいそうな過酷な作業ですね…

そのようにして作られた麹は、蒸米、酵母、水と合わせることで、初めて酒の元となる酒母(酛)に。それを数回に分けてタンクに仕込み、ようやく日本酒としての発酵が始まります。
山成酒造の酒は、一年で最も寒い時期にその作業が行われる「寒仕込み」によって造られます。空気中の雑菌が少ないこの時期を選んで仕込まれた酒は、2月に入ると、新酒として搾りの時期を迎えます。

さて、この『朗廬の里』は、搾った後に加水しない「原酒」。しかも、先程も触れたように、和窯で蒸された酒米を、杜氏たちが一粒一粒ほぐしていくため、米の旨みがぎゅっと凝縮された酒に仕上がっています。さらに、醸造の過程で生まれた上品な香りと、凛としたキレが特徴とされています。

杜氏も思わず唸った、炭酸割りが旨い日本酒『朗廬の里』

では、杜氏たちの熱意と技で醸された『朗廬の里』、山成さんから勧められた三通りの楽しみ方でいただいてみます。

まずは、冷やで。
口に含んだ瞬間、ほのかな米の香りと旨味を感じます。
喉越しもよく、キリッとした味わいの後に、米本来の甘みの余韻が続きます。
大吟醸酒と言えば、飲みやすさに重きを置き、「水のようにさらっとした味わい」に仕上げられたものが多いですが、『朗廬の里』は「米」の風味を楽しむことができる酒だということを実感。まさに、大吟醸酒の中でも唯一無二の、味わい豊かな酒です。
また、香りは控えめで、料理の味を邪魔することなく食中酒としても最適。一緒にいただいている刺身やチーズなども一段と美味しく感じられます。

黒い陶器のカップに入った「冷や」の写真
お米の旨味が口に広がって食事もお酒もついつい進んでしまいます

次にロックで。
日本酒をロックでいただくのは初めての体験だったのですが、これが良い。
冷やでいただくよりも一段と冷えているはずなのですが、不思議と、酒の甘みが一段と濃く感じられます。大吟醸ならでは雑味の少なさも冴えるようです。
ビターチョコと一緒にいただくと、キリッと冷えた芳醇な白ワインをいただいているようでもあり、ゆったりとした気分に浸れます。

氷が入ったグラスに『朗廬の里』が注がれている写真
夏の蒸し暑い夜にロックで一杯…おすすめです!

最後は炭酸で割って。
この飲み方をお聞きした時は、正直驚きました。ですがこれ、元大手酒造メーカーの方が山成酒造さんで実演され、杜氏たちをも唸らせた飲み方だとか。
作り方は、グラスに氷を入れ、1:1の割合で酒と水を注ぎ、軽く1度かき混ぜるのみ。
では一口。
思わず言葉を失ってしまいます。
日本酒を炭酸で…と、少し疑っていましたが、飲んだ瞬間、虜になるほどの旨さです。
炭酸で割ることにより、爽やかさが強調されると同時に、米の甘味にシャープさが加わり、思わず杯を重ねてしまいます。
食中酒としてもおすすめですが、これだけでも楽しめる飲み方。
日本酒の新境地を知ってしまったかのような気持ちです。

炭酸で割った『朗廬の里』にカットしたレモンが添えられた写真
いつもの飲み方に飽きてしまった方
ぜひお試しあれ!

大吟醸原酒として、これだけ多様な味わい方ができる『朗廬の里』。
220年続く酒造りの技を今に受け継ぎ、筆頭杜氏 山成遠平さんをはじめとする若い杜氏たちの熱い想いにも触れているような気がします。

「酒造りには、作り手の心が表れます。ですので、優しい心の持ち主でないと、旨い酒は作れません。今、山成酒造を支えてくれている杜氏たちは、皆、その優しさと逞しさを持っている。彼らがいてこその山成酒造だと思っています」

本当に旨い酒というものは、その味わいだけでなく、杜氏の心や生き方までも感じ取れるもの。そう実感できる『朗廬の里』。ぜひ皆さんにも飲んでいただきたい逸品です。

現在、『朗廬の里』は通販サイト 楽天市場、公式ホームページ、酒蔵敷地内にある直売所で購入できます。

会社の紹介

山成酒造株式会社
住所:〒714-2112 岡山県井原市芳井町簗瀬23番地
電話番号:0866-72-0001

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