備後地域で愛される逸品を知る。

2024.09.30 2024/10/02

【Blue Trick】心地よい肌触り。二重ガーゼのシャツ

多くのファンを魅了する洋服ブランド「Blue Trick」

この「なじみマガジン ONOMICHI」でも度々取り上げているデニムを使った商品。
デニムの残糸を利用したソックスやミニ財布、バブーシュなど、これまでさまざまなアイテムをご紹介してきました。

パブーシュを履いている女性の足元の写真
デニムのパブーシュ
両手の上に乗るミニ財布
デニムのミニ財布

というのも、読者の皆さんにはすでにおなじみだとは思いますが、広島県東部から岡山県西部にかけての備後・備中地区は圧倒的な全国シェアを誇るデニムの生産地。
ちなみにデニムとは、インディゴ(藍色)染料で染めたタテ糸と、染色をしていない白い糸のヨコ糸を使用した肉厚の綾織り生地のことをいいます。
江戸時代に始まった綿花の栽培、絣(かすり)の着物で進化した藍染の技術などが脈々と受け継がれ、それが今日のデニム生産につながっています。

今回訪れた「Blue Trick(ブルートリック)」は、備後地区の東端、岡山県井原市に本社を構える有限会社ミズタニの洋服ブランド。

店舗外観
オシャレでビンテージ感あふれる外観
店内の様子
店内にはデニムをはじめとする商品がずらり!

インディゴに染められた生地からジーンズやジャケット、シャツなどを一点ずつ丁寧な手作業で仕立て、独自店舗を中心に販売も手掛けています。中でも、男女問わず多くのファンを魅了しているのがシャツ。手に取ったときの風合いと着心地の良さはまさに逸品。
そこで今回は、特に人気の高い、柔らかな二重ガーゼで仕立てた『レッドクロス』をご紹介します。

井原伝統「織り」の技法を活かした洋服づくり

お話を伺ったのは、「Blue Trick」を率いる有限会社ミズタニの代表、水谷哲士さん。まずは、井原市伝統の織物技術についてお聞きしました。

有限会社ミズタニの代表、水谷哲士さん
笑顔でインタビューに答えてくださった水谷さん

「岡山県といえば、デニムの産地、ジーンズの聖地として知られていますが、井原市ではデニムをはじめ、多種多様な生地を作り上げる『織り』の技術が受け継がれてきました。以前と比べるとずいぶん数は減りましたが、海外の有名ブランドの生地を手掛ける機屋(はたや)もあるほど、その技術力は世界でも認められています」

井原市の織物の特徴は、先染めした糸を織り、生地にしていく技法。インディゴで染めた太い糸を織った生地がデニムとなり、糸の太さによって、厚みや固さなどが違う生地を作り出しています。もちろん、織り方や染めの濃淡によっても風合いや表情が異なる生地が生まれ、それをもとに個性豊かな服が仕立てられています。

ブランド名の『Blue Trick』は、インディゴのBlueと、技法を意味するTrickを組み合わせています。井原に伝わるさまざまな織りの技術を駆使した生地を使い、井原発の服を作りたいという想いを込めています」

デニムのタグの接写写真、ベージュの生地に桜模様、BLUE TRICKの文字が書いてある
どの商品にも一級の「織りの技術」が詰め込まれています

そもそも、水谷さんのお父様が創業したこの会社、20年程前までは縫製業が中心だったそうです。工房から響くミシンのリズミカルな音を聞きながら育った水谷さんは、衣類メーカーに勤めた後、子ども服のデザインをしていた奥様と共にBlue Trickの前身となるブランドを立ち上げます。もちろん使用するのは、デニムをはじめ、地元井原で織られた生地。奥様がデザインした服をお父様の工房で仕立て、全国の小売店で販売していたとか。注文を受けたらすぐに縫製し納品できるというクイックレスポンスを強みに、事業は順調に推移したそうです。
ただ、当時行っていたのはデザインから製造まで。どれほどこだわりを持って作っても、それを手にしたお客様の反応を見ることは難しく、もどかしさを感じることもあったと言います。

「そんなときに、全国からジーンズ好きが足を運ぶ岡山県児島市のジーンズストリートに、体験型のお店を出店してみないかという話をいただいたんです。通りにあるガレージを利用し、ゴールデンウィークやお盆などに期間限定でオープンするという気軽さもあって、挑戦してみることにしました」

それまで、客商売の経験が一度もなかったという水谷さん。自社で仕立てた服を手に、一大決心でお店に立ったそうですが、当初はお客様との距離感を掴むことすら難しかったとか。ですが、デザインから生地選び、縫製に至るまで、服にまつわるストーリーをお客様に伝えられることに、大きな喜びを感じたそうです。

ミシンで服を縫っている写真
丁寧にこだわって作られている一着ということ
沢山の人に知ってもらいたいですよね!

「思った以上にお客様の反応が良く、会話をヒントに新たな商品のアイデアが生まれることもありました。今思うと、この出店がBlue Trickにとって大きな転機になりましたね」

その後、ジーンズストリートに正式にお店を開店、並行して百貨店での期間限定ショップを出店。次第にその名を広めていったBlue Trickは、現在、岡山県倉敷市の美観地区や広島、大阪、東京など、全国に6店舗を展開中です。

目の肥えたデニムファンも支持、職人が手作業で縫い上げるシャツ

目の肥えたデニムファンからも支持され、リピート率が高いBlue Trick。多くのファンを魅了する理由はどこにあるのでしょうか?

「デニムといえばジーンズをイメージする方が多いとは思いますが、当社はブランドを立ち上げたときから、ジーンズに合わせることのできる、上着やシャツをメインに展開しようと決めていたんです。柄や風合いなど、井原の織物の良さを伝えるには、その方が適していると思っていましたので」

店内に陳列されているシャツ達
どのシャツを合わせてもピシッとおしゃれに決まりそう

デニムをはじめ、インディゴカラーが美しい生地で仕立てられたBlue Trickの上着やシャツ。あえてジーンズにこだわらない柔軟性が、ブランドならではの個性を作り出したと言えます。
もちろんそれを実現するには、デザイナーとしての奥様の技量、それから、一点一点、手作業で縫い上げていく熟練の職人たちの技術力も欠かせません。
さらに、デザインから生地選び、仕立て、販売まで一貫して行う事業スタイルが、ファンの心に響くものづくりにダイレクトに反映されていると言えます。

布に赤い線を引いている様子
どの工程も丁寧に行われていること、完成した服を手に取れば分かります

「もうひとつ、地元の機屋(はたや)との連携もBlue Trickの強みですね。こちらから、『こんな生地を作りたい』と依頼することもあれば、機屋から『面白い生地ができたから使ってほしい』と、提案されることもあります。お互いがアイデアを持ち寄り、常に新たな発想でものづくりができるのは、地場産業だからこそです」

はたを織る家。反物を作る家

二重ガーゼが柔らかい。やさしい肌触りのシャツ「レッドクロス」

今回ご紹介する『レッドクロス』も、もちろん地元井原の機屋で織られた二重ガーゼで仕立てられています。表面のインディゴカラーと内側のレッドカラー、それらの対比が印象的な一枚です。

商品名からわかるように、表面には赤の十字模様が並び、インディゴにアクセントを加えています。
この模様は、表と内の二枚のガーゼを接結する際、部分的に内側の赤いガーゼを表に引き出してできたもので、織りの技術そのものがデザインに活かされています。
併せて目を引くのが、胸に刺繍された日本列島のロゴマーク。「made in Japan」の誇りと、地域に根差したものづくりへの情熱を表現しています。

レッドクロスの胸元アップの写真、胸元のポケットに日本列島の刺繍がしてある
さりげない日本列島の刺繍
着るとちょっと誇らしい気持ちになります

実際に手にしてみると、生地感は柔らかく見た目以上に軽くふんわりとしていて、表面の細かい模様がとてもかわいいです。

この取材を通して知った『レッドクロス』に一目惚れした私は、早速お家に連れて帰ることに。ここからは実際に持ち帰って試してみた私の感想を紹介させていただきますね。

少し肌寒くなってきた週末、この『レッドクロス』を羽織って、家族でお出かけしてきました。
袖を通した最初の感想は、綿素材のガーゼが持つ風合いそのままに、肌に触れたときの柔らかさ、優しさがとても心地良い!
日中暑かったり、朝晩寒かったりする時期にこれ一枚もっていくととても重宝しそうです。脱いだらカバンにくしゃくしゃっと丸めてしまっても、生地が柔らかくシワになりづらいのもいいですね。

レッドクロスを着ている写真
こちらはメンズのレッドクロス
大きく動いても生地がつっぱらないので動きやすいです

冬はハイネックと組み合わせて着てもオシャレに着こなせそう。
ジーンズとの相性はもちろん、ロング丈のスカートや綿のパンツなどとも合わせやすく、これ一着あれば間違いないという感じです。

メンズとレディースで細かい部分の作りが異なっているのもうれしいポイント!
襟周りや裾のデザイン、ボタンの素材を変えてあったり、レディースはシャツの後ろが長めになっているので、横から見ると足長効果を演出した作りに仕立ててあります。

レッドクロスのレディースデザイン、襟元のアップ
ちょこんとした襟と赤いばってんが可愛いボタン
レッドクロスのレディースデザイン、シャツの下側のアップ
少しだけお尻を隠してくれるの、嬉しいです(笑)

これから迎える秋の行楽シーズン、紅葉と『レッドクロス』の裏地の赤が隠れたオシャレを演出してくれることは間違いなし、出かける楽しみがまた一つ増えそう。
季節やシーンを問わず着られる『レッドクロス』、私のお気に入りの一着に加わりました。

最後に、水谷さんに今後の展望を伺ってみました。

「一つは、『“飽きない”商い』をすることですね。常に新しい商品を生み出し、お客様が来店するたびに、新鮮な驚きを感じていただけるようなものづくりを続けていきたいです。
それから、『人を育てる』こともこれからの課題だと感じています。井原が受け継いできた織物の技法や縫製の技術ですが、後継者がいないことを理由に工場をたたむ事業者も多いんです。なんとかこの状況を変えたいと思い、2年後を目処に実際にものづくりを体験、見学することができる施設をオープンする予定です。
この施設をきっかけに、若者が働きたくなる、暮らしたくなる井原の街を実現したい。さらには、この取り組みで地元の事業者同士がつながり、街全体が盛り上がっていけば、これほど嬉しいことはありませんね」

言うなれば、「デニムを通したまちづくり」。
水谷さんのものづくりへの情熱はまちづくりへと進化しているようです。それも、井原市が受け継いできた織物の技術に、水谷さん自身が惚れ込んでいるからこそ。伝統の技法から新たな価値を生み出すBlue Trickの服、皆さんもぜひ、手に取ってみてください。

「Blue Trick」の『レッドクロス』は、公式ホームページの他、以下の実店舗で取り扱っています。なお、欠品の場合もありますので事前のご確認をおすすめします。

  • 岡山県:井原店、児島店、美観地区店(倉敷市)
  • 東京都:2k540店(台東区)
  • 大阪府:KITTE大阪店
  • 広島県:そごう広島店

その他、全国の百貨店でポップアップも開催しています。詳しくは公式ホームページをご確認ください。

お店の紹介

Blue Trick(有限会社ミズタニ)
住所:〒715-0021 岡山県井原市上出部町578-1
電話番号:0866-62-3801

ホームページ