願い叶う塩が入った「くわい葉染め 御守り」
神社仏閣で買い求めることができるお守り。
健康や安全、縁結びや商売繁盛など、私たちの願いを託す縁起物として携えている人も多いのではないでしょうか。
日本での起源は、縄文時代に魔除けとして身につけていた勾玉という説もあり、1万年以上にもわたり人々の心のよりどころとして根付いています。最近では、ビーズやレースがあしらわれたもの、動植物を形どったものなど、一昔前のお守りとは異なる趣のものもあるようです。
そこで今回ご紹介するのは、ナチュラルな品格を感じさせる『くわい葉染め® 御守り』。
新月の時に作られた「願い叶う塩」が入った、見た目も美しく手に取った際の風合いも心地良いこだわりのお守りについて、「Bingo Style」の代表、ファブリックデザイナーも務める藤阪 順子(ふじさか じゅんこ)さんに詳しくお伺いしました。
備後絣の魅力を伝えたい。その一心で立ち上げた「Bingo Style」
藤阪さんが、広島県福山市で自社ブランド「Bingo Style」を立ち上げたのは2014年。
この地方で紡がれてきた、日本三代絣の一つである「備後絣(びんごかすり)」のすばらしさを多くの方に知ってもらい、さらに次の世代へと繋ぎ残していきたいという想いがきっかけだったそうです。
「私が初めて備後絣に出会ったのは約20年前になります。『順風暮らし』の名で会社を立ち上げ、布を使ったハンドメイド雑貨を製作していたところ、知り合いから備後絣の着物を着せたテディベアを作ってほしいという依頼を受けたんです。そのとき手にした備後絣は、当時使用していた布とはまったく違いあたたかくやわらかで、一瞬で心惹かれました」
備後絣の職人がよく口にする「おてんとさんに 干さんといけん」の言葉に現れているように、藍色に染められた糸は何度も洗い天日干しされることで空気をはらみ、ふんわりとしなやかな風合いが生まれます。江戸時代から継承されてきた細やかな手仕事の文化に触れ、そこに込められた伝統文化の奥深さにも心を打たれたと、藤阪さんは話します。
「ただ、備後絣の織元は当時わずか5社のみ。今では2社になってしまいました。福山市はデニムの生産地として有名ですが、その源流でもある備後絣は危機的な状況。江戸から昭和初期にかけて、絣は着物やもんぺなど庶民の衣類として欠かせないものでしたが、戦後に原料となる綿花の生産制限がかけられたこと、それから欧米の服装が広まったこともあり、需要そのものが減少したのが理由です」
確かに、昭和40年代頃までは、農作業などで絣で織られたもんぺを履いた人を稀に見かけることもありましたが、今では懐かしい日本の風景として思い起こすばかり。私たちの今の生活において、絣が縁遠いものになっているのは確かです。
「絣が愛用されなくなったことで、シャトル織機で備後絣を生産する織元も、事業転換を余儀なくされたようです。このままでは備後絣の伝統そのものが失われてしまう。その想いが募り、私にできることはないか、そう考えるようになりました」
そもそも絣の布は、職人がシャトル織機を使い、何度も手を加えながらゆっくりと丁寧に織り上げていくことで表情豊かな風合いが作られていくもの。一方で、現在主流になっているシャトルレス織機は短時間で仕上がるものの硬い手触りになり、両者の違いは歴然です。非効率とも言われるシャトル織機ですが、手間がかかるからこそ、触れたときのしなやかさとともに、そこに込められた職人の息遣いをも感じることができます。
「織元に足を運び、職人さんたちの作業を拝見すると、なんとかして備後絣の魅力をより多くの人に知ってもらいたいという思いに駆られます。その一心で『Bingo Style』を立ち上げ、暮らしの中に取り入れやすい備後絣をコンセプトに、これまで100種類以上のファブリック※を製作してきました。不思議に聞こえるかもしれませんが、備後絣を知れば知るほど、時代に翻弄されてきたその歴史が人の人生にように思えて、たまらなく愛おしく感じるんですよ」
※生地や織物、布全般を指す言葉
絣の柄である波や花、雪などには、織り手の暮らしや心情が表現されていると言います。時の移り変わりの中で、備後絣に関わってきた大勢の人たちの熱意が、藍色に染められた糸に、そして織り上げられた一枚の布に込められています。藤阪さんはその備後絣に、オーダーで寄せられるお客様の想いを乗せ、ファブリックを作り続けているそうです。
備後の布を福山特産くわいの葉で染めたお守り
さて今回ご紹介する『くわい葉染め 御守り』は、藍色に染められる前の無染色の糸をシャトル織機で織り上げた「備後の布」をくわいの葉で染めたもの。絣とは一味違い、丈夫でかつ肌馴染みが良いのが特徴です。
「福山市はくわいの産地としても有名で、全国一の生産量を誇ります。必ず芽が出る、しかも大きな芽が出るとあって、昔からめでたい(芽出たい)縁起物としてお正月などに食されてきました。しかも、鏃(やじり)の形に似たその葉は、福山藩の城主であった水野家の家紋にも用いられていて、福山とは切っても切れない縁があります。
ですが、消費量の低下や担い手不足が原因で生産量が減少し、その変遷は備後絣と通じるものがあるんです」
備後絣同様、長い時間をかけ育まれてきた地元の産業を残したいと、くわい農家の力にもなろうと決意した藤阪さん。くわいを「備後の布」に活かすべく7年もの歳月を費やし、ついに「くわい葉染め®」を考案します。
完成した布は、くわいの収穫前日に農家から譲り受けた葉で染色され、優しいアイボリーがかった自然な色合い。手に伝わる風合いもやわらかで、肌身離さず携えておきたいお守りにぴったりの素材と言えます。さらに、フランスでもその腕を認められた地元の刺繍業社が施した、ロゴ刺繍の繊細さも秀逸。
「桃色、抹茶緑、黄色、藍色、赤色の5種類の刺繍糸はどれもやさしい色合いです。手に取る方の願いによって好みの色を選んでいただければと思います」
そしてこのお守りには、パワースポットとしても有名な鞆の浦の「仙酔島」で新月の時に作られた「願い叶う塩」が入っています。
仙酔島は広島県福山市の南端、鞆の浦から船で数分のところに位置する、瀬戸内海国立公園の景勝地。かつて仙人が住んでいたという伝説から、「仙人が酔う程に美しい島」と称されたのが、島の名の由来だとされています。また、江戸時代の文人、頼 山陽(らい さんよう)がその自然美に感銘を受け「山紫水明」と表現したことでも有名です。
その島で、新月の時に汲み上げられた海水を熟練の職人が昔ながらの製法で精製した「願い叶う塩」。
思い浮かべるだけで神秘的、なおかつ力強いパワーをいただけそうな気がします。
自らの願いをしたため忍ばせる「くわい葉染め 御守り」
この『くわい葉染め 御守り』ですが、私用に購入する人もいれば、家族や大切な人にプレゼントする人も多いとか。私も、桃色の刺繍が施されたお守りを娘のために買い求めました。
このお守りの興味深いところは、自らの願い事をしたためた紙をお守りに忍ばせること。しかも、「〜になりますように」ではなく、「〜になりました」という完了形で文章にします。
そう書くことで、自らの願いをより明確にすることができ、そこに向かって歩を進める力も湧いてきます。「〜になりました」と完了形で書くことで、願いが叶ったときの自らの姿もより鮮明にイメージでき、きっと願い成就への後押しになるはずです。
恋愛、健康、金運など、願いはさまざまですが、彼女が自らのどんな願いをしたためたのかは聞かないことに。いつの日かそれが成就した際には、きっと教えてくれることでしょう。
藤坂さんの想い、職人の想い、そしてお守りを持つ人の想いが込められた、手のひらより小さなこの逸品は、古来から伝わる日本の美しい文化の結晶と言えるかもしれません。
最後に、藤阪さんにこの先10年の願いをお聞きしました。
「会社の名前にある『順風』は、家事や子育てに追われながらも社会との確かな繋がりを得たいと願う女性の背中を、そっと押す風になりたいと思ったからです。女性を取り巻く環境は徐々に変わりつつありますが、私が得意とする手仕事を通して女性の自立をさらに後押しできればと、近頃、ものづくり教室を始めました。女性の作り手を増やすことは、備後絣の文化継承にも繋がると信じています。
これまで、私が織元の職人をはじめ手仕事に関わる多くの人たちに導いていただいたように、今後は、私が全力で『順風』としての役割を担いたいと思ってます」
現在、『くわい葉染め 御守り』は、公式ホームページの他、広島市の安芸グランドホテル、オリエンタルホテル広島で購入できます。
皆さんもぜひ、そのあたたかな風合いのお守り、手に取ってみてください。