備後地域で愛される逸品を知る。

2024.04.10 2024/04/10

【バタークリームケーキ】素材を吟味!昔ながらの昭和の味

昔ながらの味を守り、素材を吟味したバタークリームケーキ

おそらく、40代後半以上の年齢の方にとっては、懐かしい思い出のある「バタークリームケーキ」。
近頃では、街のあちこちにあるケーキ屋さんでもほとんど目にすることがなくなりました。ちなみに私は1970年代生まれ。幼い頃の記憶にある誕生日やクリスマスのケーキは、間違いなく「バタークリームケーキ」でした。

バラの飾りの乗ったバタークリームケーキ
今ではめずらしくなってしまったバタークリームケーキ

「当時、生クリームのケーキもありましたが、主流はバタークリームたっぷりのケーキでしたね。生クリームがまだまだ高価な時代でしたので、一般の方の口にも入りやすかったんだと思います」

そう話すのは、広島県三原市で「ケーキハウス シャンボール」を営む田尻 香里さん。
お父様が考案したバタークリームケーキ『アデーシャン』を受け継ぎ、今も作り続けています。

『アデーシャン』はドイツ菓子のザントクーヘン(砂糖とバターの少ない配合で作ったパウンドケーキ)をアレンジしたもので、リング型のケーキにはバタークリームがコーティングされ、表面には粒子の細かいアーモンドパウダーが施されています。
「これこれ、この味が食べたかった!」と昔を懐かしむ方や、バタークリームを新鮮な味わいと受け止める若い方など、1972年(昭和47年)の発売以来、看板商品である『アデーシャン』を求め、シャンボールに足を運ぶお客様は後を断ちません。

今回は昔ながらの味を守り、子供も安心して食べられるよう素材を吟味したバタークリームケーキ『アデーシャン』の魅力をご紹介します。

ケーキハウスシャンボールの店舗外観
青と白を基調としたおしゃれなお店
ケーキハウス シャンボール
スイーツが並ぶ店内の写真
落ち着いた雰囲気の店内には華やかなスイーツがずらり

昭和から続く菓子店。材料を見直し、新たな洋菓子づくり

「ケーキハウス シャンボール」は田尻さんのお爺様が1960年(昭和35年)に創業した菓子店。
和菓子店「清月堂」として三原に誕生し、その10年後には洋菓子も提供するお店として生まれ変わりました。

田尻さんは高校卒業後、関西の短大で学んだ後、さらに製菓専門学校で菓子作りの勉強を積んだそうですが、当時は本気で家業を継ごうとは思っていなかったとか。

オーナーパティシエ 田尻さん
オーナーパティシエの田尻 香里さん
当時の想いを教えていただきました

「その後、兵庫の洋菓子店で働いていたんですが、阪神淡路大震災をきっかけに思いがけず三原に戻ることになったんです。当然、店に関わるようにはなりましたが、私の中では継ぐというより『手伝う』という感覚でした」

幼い頃から親しんでいた環境だからこそ、田尻さんにとっては、まるで敷かれたレールの上を歩んでいるような感覚。まして、関西で製菓を学び、洋菓子店で仕事をしていた経験があったため、余計にお父様の菓子作りに対する反抗心も強かったと言います。

「父と一緒に仕事をするようになったものの、教えてもらうことを素直に受け入れられない時期がありました。『私の活躍する場所はここではない』という思いも強かったんです。今思えば、親不孝かもしれませんね。そんなとき、ある勉強会で『今できることを精一杯取り組めば、自ずと次のステップが見えてくるはず』と言われたんです」

その言葉を真摯に受け止めた田尻さん。ケーキ作りに本気で向き合ってみると、どれほど幸せな仕事なのか、ということに気づいたそうです。「思うものを作ったらいい」というお父様の理解もあり、3代目として自分がやれることを模索し始め、取り組んだのが材料の見直しでした。

ショーケースに並んだ沢山のケーキ
田尻さんの想いが注がれてパワーアップしたケーキ達

小さなお子さんを含め、お客様に安心して食べていただけるように、小麦粉、卵、ベーキングパウダー、バターに至るまで全てこだわりの材料を厳選して使用するようになりました。これが私流のケーキ作りへの向き合い方だったんです」

とはいえ、本腰を据えて「シャンボール」で洋菓子作りに取り組み始めた場所は、三原市ではなく、お隣の東広島市だったとか。

「その頃、三原の店舗が手狭になり、市内に新たな店を構えようと思っていたんですが、あまり良い場所が見つからず、広島大学や近畿大学などのキャンパスがあり若い世代が多い東広島市に拠点を移すことになりました。それからしばらく東広島で営業を続けていたんですが、2019年に三原で再オープンしました」

約20年ぶりということもあり、新規出店の思いで店をオープンしたものの、当日は長い行列ができるほどの人出。さらに、シャンボールの再開を待ち望んだ古くからの友人やファンから、たくさんの花が届けられたそうです。「帰ってきてくれてありがとう」。その言葉に支えられ、故郷三原で、田尻さんの新たな洋菓子作りがスタートします。

店頭で販売されている昭和レトロプリン
「昭和レトロプリン」は
三原の魅力を伝えたいと誕生したプリン

安心材料にこだわったバタークリームケーキ「アデーシャン」

「その中でも、やはり力を入れているのは『アデーシャン』です。開店した当初から、このケーキを求めて足を運んでくださるお客様も大勢いました。『懐かしい!』、『この味をずっと待ってたんよ』と言っていただき、どれほど励みになったかわかりません」

ショーケースの中に並べられた「アデーシャン」
多くの人の心をつかんで離さないシャンボールの「アデーシャン」とは…?

もちろん、材料にはこだわり続けています。
小麦粉はケーキ作りに適した北海道産のものを。砂糖は、血糖値の上昇を緩やかにし、お腹の調子を整えてくれるオリゴ糖を多く含むビートグラニュー糖(てんさい糖)を。卵は、自然治癒力を高める効果も期待できる安心安全な地元産を使い、さらに、ベーキングパウダーは、子どもにも安心なアルミニウムフリーのものを厳選しています。もちろん、『アデーシャン』に欠かせないバターは、国産の最高級純バターを使用し、仕上げの際、ケーキに施されるアーモンドパウダーは一から手作りというこだわり様。手を抜くことなく、真摯な姿勢でケーキ作りに向き合うその様子は、お祖父様やお父様から受け継がれたものかもしれません。

保存料・着色料も一切使っていません。私自身も子育て中ですので、小さなお子さんにも安心して食べていただきたいという思いで、一つひとつの材料の見極めは当然のこととしてやっています」

フルーツとネームプレートを飾ったアデーシャン、ネームプレートには美結ちゃん卒業おめでとうと書いてある
お店で購入する人の中には
お祝いのケーキとしてオーダーする人も

もちろん、作る工程にもこだわります。
『アデーシャン』のスポンジ生地は一般的なものに比べ、やや固め。配合の微妙な差や工房の温度や湿度が、食べた際の食感に影響するそうです。「最高の状態でお客様にお届けしたい」という思いのもと、日々新たな気持ちで工房に立つ田尻さん。このケーキにかける思いをお聞きしました。

「三原の方にとって、『アデーシャン』が思い入れのあるケーキだということを、お客様と話していると感じるんです。年配の方にとっては、子どもだった頃に家族で切り分けた思い出深いケーキ。きっと一口食べただけで、当時の景色や感情が蘇るんだと思います。
バターが入手困難な時期には作るのを止めようかと思ったこともありましたが、やはり、このケーキを求めてシャンボールを訪ねてくださるお客様のためにも、私には作り続ける理由があるんだと感じています」

バタークリームなのにあっさり!口溶け抜群の「アデーシャン」

さて、三原市の方に愛され続ける『アデーシャン』ですが、リング型のそのケーキの色は柔らかなピュアホワイト。表面に施されているアーモンドパウダーは雪の結晶のようにも見えます。
カットした断面は3層に分かれ、中にバタークリームがサンドされています。

カットされお皿に乗ったアデーシャン
バタークリームが2層にサンドされているスポンジ
とても美味しそう♪

では、いただいてみます。
濃厚な味わいかと思いきや、とてもあっさり。私が幼い頃に食べていた、もったりとしたバタークリームケーキとはまるで違う味わいに驚きです。
バターと一緒にホイップされた生クリームの乳味がそれほど感じられず、口に入れた瞬間にスッと溶けてなじんでいきます。さらに、やや固めに焼き上げられたスポンジも、バタークリームと一緒にほどけていくような感覚。口溶けの良さは、他のケーキと比べても群を抜いています。さらに表面のアーモンドパウダーがさらっとしていて、あっさり感を後押ししているようです。
それぞれの素材にこだわり、丁寧に作られていることが、食べ進めるほどに感じられるケーキです。

さらに、ケーキに添えられていた「レモン塩」をトッピングしていただいてみます。
意外や意外、これが絶妙にマッチし、あっさり感がより際立ちます。ほのかに香るレモンのおかげで爽やかさもプラスされ、先程とは一味違った『アデーシャン』を楽しむことができ、こちらもおすすめです。

アデーシャンにレモン塩をかけている様子
塩味がケーキの美味しさを引き立ててくれます
鼻に抜けるレモンの香りがおしゃれ♡

ちなみに、この「塩」のアイデアは、お客様から寄せられたものだとか。半信半疑で試した田尻さんもこの新たな味わいに魅了され、三原市の離島「鷺島(さぎしま)」で栽培されている無農薬のレモンの皮を足すことでオリジナルの「レモン塩」が完成したそうです。

一つで二度の楽しみ方ができる『アデーシャン』、間違いなくバタークリームケーキ界の逸品です。

さて、お父様から引き継いだ『アデーシャン』の素材を見直し、誰もが安心しておいしく食べられるケーキに改良していった田尻さん。今後はどのような青写真を描いているのでしょうか。

お店の前でインタビューに答える田尻さん
田尻さんの思うこれからのアデーシャンは?

「このケーキはやはり父が作ったもの。これからは、私らしさを加えていき、姉妹バージョンを増やしていきたいと思っています。春にはスポンジを桜の風味にアレンジしたり、夏にはキリッと冷えた白ワインに合うような、デザートの枠を超えた『アデーシャン』を作ってみたいなとも構想を膨らませているんです。ただ一番の目標は、皆さんに笑顔になっていただくこと。そのためにも、まだまだ作り続けます」

現在、通販サイト 楽天市場(ふるさと納税)、公式ホームページの他、店舗、道の駅 みはら神明の里で購入できます。
懐かしさの中にも新鮮な味わいのある『アデーシャン』、ぜひお試しください。

お店の紹介

ケーキハウス​シャンボール
住所:〒723-0011 広島県三原市東町2-8-8
電話番号:0848-63-8050

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