跳び箱の形の小物入れ『トビコバコ』
目にした瞬間に、手にした瞬間に、ずっと忘れていた昔の記憶が蘇るような「もの」、ありませんか?
今回紹介するのは、まさにそんな逸品。「もの」の魅力と一緒に、懐かしさも味わえる、跳び箱の形をした可愛らしい小物入れ、『トビコバコ』です。
訪れたのは、広島県府中市三郎丸(さぶろうまる)。天然のウォータースライダー「滝すべり」が体験できる「三郎の滝」からも程近い「豊田産業株式会社」さんです。
府中市といえば、家具の一大生産地として有名。
その昔、中国山地から伐り出された良質な桐の集散地であったことから、ここでは300年以上に渡って家具が作り続けられています。防虫効果や乾湿性の高さが特徴の桐を使用した家具は、その優れた品質から徐々に全国に知れ渡り、特に昭和30年頃から打ち出された、和ダンス、洋服ダンス、整理ダンスの3点セットの婚礼家具は、今でも府中家具の代名詞となっています。
その府中市で、1966年の創業以来、家具作りを手掛け、主に和ダンスの衣装盆を製作してきたのが豊田産業。衣装盆の他にも、新しいアイデアと柔軟な発想を元に、これまで様々な商品を世に送り出してきました。
その一つが今回ご紹介する『トビコバコ』。
インテリア性も兼ね備えた小物入れとして、机やクローゼットの上など、いつも身近に置いておきたくなる商品です。
その『トビコバコ』について、完成までの経緯も含め、豊田産業の豊田裕子(とよたひろこ)さんにお話を伺いました。
会社のピンチを救った母親としての視点
木工職人として、『トビコバコ』の他、多くの商品開発に携わってきた裕子さん。そのスタートは今から30年以上前に遡ります。
「夫はこの会社の2代目でしたので、私も結婚した当初から事務職として会社を手伝っていました。それからしばらくして長女が生まれ、木工に関わるようになったのはその頃から。「やってみたい」の一心で、当時、職人として働いていた叔父に弟子入りし、機械の使い方をはじめ、職人としてのいろはを教わりました」
そもそも、ものづくりに興味を持っていた裕子さん。学べば学ぶほどに、木工の楽しさを感じたと言います。特に、金属や樹脂などとは違い、自在に形を変化させることができる「木」の可能性に魅了されていったそうです。
ですが、ちょうどその頃、家具業界は斜陽を迎えます。
家具量販店の拡大や住宅事情の変化などの理由から、婚礼家具といった大型家具の需要に陰りが見え始め、その影響は豊田産業にも。
木工職人として一歩を踏み出したばかりの裕子さんは、新たな商品開発の必要性を感じたと言います。
「府中家具に長く携わってきた会社として技術力は確かなのに、事業の柱である衣装盆の生産が減り、その技術を活かす場が減ってしまったんです。ですので、なんとか状況を変えられないかと、新しい商品のアイデアになりそうなものを、普段の生活でも常に探していました。
そんな時、ふと思いついたのが、子どもの乳歯を保管する「おいたちの小箱」だったんです」
当時、歯が生え変わり始めていた娘さんの乳歯をどこにしまっておくか、困っていたという裕子さん。同じような悩みを持つ、他の母親たちの意見も参考にしながら、「歯の並び」をそのまま形にした乳歯入れ「おいたちの小箱」を完成させます。へその緒と母子手帳も一緒に納められる仕様にしたことで、発売と同時に評判に。
府中家具の会社としてのプライドを、母親の視点で体現した最初の作品が、「おいたちの小箱」でした。
わが子の成長をきっかけに完成した『トビコバコ』
「わが子の成長が、豊田産業にとって、新たなものづくりのきっかけになっているかもしれませんね。実は、この『トビコバコ』も、当時小学生だった子どもたちの様子から、ヒントを得ているんですよ」
とにかく、「木」が好きで、その面白さを実感していた裕子さん。大きさが異なる箱を重ねていくことができないか、と思案中だったと言います。
衣装盆作りで培ってきたスタッキング(積み重ねる)技術を元に、なんとか作品を作り上げ、その姿を見る中で閃いたのが「跳び箱」だったそう。
「違う大きさの箱を重ねるだけだと、どうしても箱が階段状に積み上がってしまいます。でも、その部分を斜めにカットすることで跳び箱の形にできるかも、と思ったんです。
子どもが通っていた小学校にも足を運んで、実際に跳び箱の形状を参考にしながら形を作り、何度となく変更を重ねて、ようやく今の『トビコバコ』ができたんですよ」
側面を斜めにしたこの形は、家具や木製の小物でも、あまり用いられることがないとか。そこには、裕子さんの総意工夫と、豊田産業の技術力の高さが現れています。
もちろん、素材にもこだわりがあるそうです。
「木の部分は全て桐。昔から家具作りで使用してきた素材ですし、その品質の良さと軽さが『トビコバコ』に適しています。
一番上の布の部分には倉敷帆布を使い、その中に入っているクッションは、繊維くずを圧縮して作ったソフロンと呼ばれるこだわりのエコ素材。本物感を出すために、弾力のある程よい硬さに仕上げています」
跳び箱という形の珍しさ、そしてなにより、幼かった頃の記憶に思いを馳せることができる商品ということで、『トビコバコ』は全国的なギフトショーなどでも大きな反響があったそうです。
さらに、多くのメディアに取り上げられたこともあり、全国から注文が殺到したとか。
小さくて可愛い!片付けが楽しくなる『トビコバコ』
一つひとつ、職人の手によって作られる『トビコバコ』。その丁寧な仕事ぶりは細部にまで至っています。
まずはリアルさ。本物の跳び箱同様、1段目、2段目、3段目と数字が記されており、ふと懐かしい記憶が蘇ります。
それぞれの角が、やすりがけによって丸く整えられているのも嬉しいポイント。子どもの柔らかい手にも馴染み、同時に桐の木ならではの優しい風合いも味わえます。
その上、少しの狂いもなくスタッキングできる精密さのおかげで、「出して、仕舞う」の動作も自然に行えます。
今回紹介する『トビコバコ』は『Punva(プンバ)』というタイプで、3段の箱を積み上げるもの。細々した文具やアクセサリーなどを入れておくのに最適なサイズです。
ということで、今回は「なじみマガジン ONOMICHI」のデザイナーがこの取材を楽しみにしていたということで実際に使ってみた感想をご紹介します。
まず手に取ってみると、桐のすべすべとした質感や倉敷帆布の弾力感が心地いいです。思わず跳び箱を飛ぶ時に触れたクッションの記憶が蘇ってきました。
ただの小物入れではなく、小さいけど本物の家具のようです。
職人さんの本気の”ものづくり”の心を感じ、こちらまで創作意欲を刺激されました。
デスクに飾ってみると…。わ~!可愛い!
いつもの風景にこの『トビコバコ』が加わるだけで、自分の机がミニチュアの世界になったようでワクワクします!
デスクに散らかった小物をしまっていくのですが、1段目にはよく使うペンを入れようかな?付箋とクリップはどこに入れよう?と、どこになにを入れようか考えるのがとても楽しいです。
しかも本物の跳び箱をそのまま小さくしたような丁寧な作りなので、触っているだけでも楽しく、つい何かを入れたくなります。
縦に積めてスペースも取らないので片付けが苦手、出したものを置きっぱなしにしてしまう人にもおすすめですよ。
他にも「小さめの裁縫箱」として使うことも。糸やボタン、レースなど、いつもなら行方不明になりがちな細々したものも、それぞれの段にスッキリと仕舞えます。
また、一番上のクッション部分は針山としても利用可能。これ一つで、ちょっとした裁縫も気軽に楽しくできそうです。
さて、『トビコバコ』のクッション部分ですが、帆布そのもののナチュラルな色を基本に、パステルカラー4種類、くすみカラー4種類と、カラー展開も豊富。お好みの色をチョイスすることもできます。
さらに、『Punva(プンバ)』以外にも様々なサイズがあり、大きいものでは、子どもが座れる程のおもちゃ箱として利用できる『トビコバコ』もあります。
「実は、お客様からのご要望から、それぞれの段が引き出し式になっている『トビコバコ』も作りました。下の段のものが、より取り出しやすいという理由からです」と裕子さん。
その他にも、お客様から寄せられる数々の声が商品作りに反映されているそうです。
そこには、「常にお客様のニーズに応える、ものづくりを」という豊田産業の信念が貫かれています。
自分用にはもちろんですが、どなたかへのプレゼントとして購入する方が多いとか。
想いを込めて作られた一つひとつが、手に取った方それぞれの「思い出」と結びついているに違いありません。
ぜひ、皆さんのそばにずっと置いてほしい逸品です。
現在、『トビコバコ』は通販サイト Amazon、楽天市場の他、公式ホームページや下記の店舗で購入できます。
- 広島県:道の駅びんご府中(府中市)、ハンズ広島店(広島市)
- 東京都:36(武蔵野市)、三省堂書店ソラマチ店(墨田区)、山田文具店(三鷹市)
- 京都府:K -Works(京都市)