
【トマピカル】マスカットのような甘さのフルーツミニトマト
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※写真の無断転載はお控えください。
岡山県の西端、瀬戸内海に面した笠岡市。
国指定天然記念物「カブトガニの繁殖地」があることで知られ、広大な干拓地では野菜から果物までさまざまな農作物が栽培されています。また、沖合には笠岡諸島が連なり、大小31の島々が織りなす多島美を楽しむこともできます。

その海岸沿いに建つ一軒の古民家が、今回の目的地「瀬戸の古猫庫(こねこ)」です。
2階のカフェからは、穏やかな瀬戸内海が一望でき、天気の良い日には遠く四国山脈が望めることもできます。眺望とともに人気を集めているのが、家庭的な味わいのランチや、オーナーの井上さんが腕を振るうスイーツ、そして奥様が焼くパンの数々。週末ともなれば、入店待ちの車が店先に列を作るほどの盛況ぶりで、一度訪れると何度も足を運びたくなると評判のお店です。


そして、1階に常設されているのが、全国から集められた1,600体以上もの招き猫。
瀬戸ものや土人形の招き猫を展示したギャラリーには、大きさも表情もさまざまな招き猫がずらりと並び、猫好きにはたまらない空間となっています。
なかでも、ひときわ存在感を放つ猫!それが、オーナーであり、「あくら土人形」作家の井上 雅也(いのうえ まさや)さんが自ら製作した『多幸招き猫(たこうまねきねこ)』です。
今回は、『多幸招き猫』に込めた井上さんの思いや、製作秘話などを詳しくご紹介します。

1階のギャラリー、2階のカフェともに、古さを残しながらもモダンにリノベーションされた「瀬戸の古猫庫」。かつては蔦が絡まる廃屋で、長い間人が住んでいなかったために床が抜け落ち、屋根にも穴が空いていたといいます。その古民家を井上さんが一目で気に入った理由は、2階から望む景色のすばらしさでした。
「漁師の家に育った私にとって、瀬戸内の穏やかな海を一望できるこの古民家は、それだけで充分な価値がありました」

幼い頃から手先が器用で、ものづくりが得意な井上さん。購入してすぐ、自らリノベーションを開始します。道具を揃え、床を張り直し、柱を入れ替え、壁や建具も作り直す…。休みを返上しての作業は一年半に及びましたが、家は少しずつ息を吹き返したそう。ようやく完成したとき、海に面した古民家は「人が集う場所」へと生まれ変わりました。
「この家を購入したのは、招き猫のギャラリーを開きたいという思いがあったからなんです。それまでに集めた瀬戸ものや土人形の招き猫を、多くの方に見ていただきたいと思っていました」
そもそも井上さんが招き猫に興味を持ったのは、まだ会社勤めをしていた頃のこと。
骨董品集めが趣味で、休日になると骨董品店に出かけていたとき偶然に出会ったのが、店の片隅に置かれていた瀬戸ものの招き猫でした。それまで骨董にあまり興味がなかった奥様が何気なく手に取ると不思議な温かさを感じ、連れて帰ったことからコレクションがスタートします。1匹だけでは寂しいだろうと、それを機に招き猫が増えていき、気付けば井上さんもその愛らしさに魅了されていたそう。

以来、骨董品店だけでなく窯元へも足を運ぶようになり、愛知県の瀬戸や常滑、岐阜県の多治見など、瀬戸ものの招き猫を探して各地を巡ったといいます。明治、大正、昭和、なかには江戸時代に作られた招き猫まで。やがて土人形の招き猫も収集するようになり、今では瀬戸ものを超えるほどの数に。ギャラリーには、全国各地で作られた作品が所狭しと並びます。


「集めていくうちに人形作家とも交流を持つようになり、次第に人形作りの現状もお聞きするようになったんです。そこで知ったのが、伝統継承の難しさ。高齢の作家のなかには、その代限りでやむを得ず廃業する方もいて、なんとかできないものかと考えるようになりました」
そんな井上さんが思い至ったのが、自ら土人形を作るという選択。もともと、ものづくりが得意だった井上さんは、見様見真似で人形作りをはじめます。その腕は作家からも認められ、「ぜひ跡を継いでほしい」という依頼を受けるほどに。現在では、いくつかの窯元の型を譲り受け、土人形や張子人形の製作を引き継いでいます。

「これも縁ですね。伝統を受け継いでいくために私にできることはないかと考えたことから、新たな道がスタートしました。人形作りは奥深く、やればやるほど興味が尽きません。手を動かし始めると、何時間も没頭してしまうほどです」
一体の招き猫との出会いに始まり、今では作り手にまでなった井上さん。骨董収集で培った審美眼は造形のベースとなり、作り手としての学びにもつながっています。
「古い猫を見ていると、作家の呼吸まで伝わってきます。自分も土に触れると、その技術の高さに驚かされます。この伝統を未来に残していくことは、私の使命かもしれませんね」
そして、井上さんオリジナルの土人形第一作として世に送り出したのが『多幸招き猫』。
山形県の相良人形からインスピレーションを受けて作った作品です。猫の頭にタコが絡みつく、ユニークな相良人形は、タコを「多幸」になぞらえ、幸せに恵まれるようにと願いが込められています。

「タコは昔から縁起の良いものとされ、特に猫と組み合わせた人形もよく作られてきました。目にすると思わず笑顔になるような姿に、私も惹かれて。ならば、幸せを運ぶという願いを込めて、多くの方に手に取っていただけるような人形を作りたいと思ったんです」
井上さんが作る『多幸招き猫』は、招き猫がタコをおぶっているかのような造形。しかも、タコも猫と同じように、福を招く仕草です。表情は真剣なようでどこかおどけていて、ユーモアを感じます。筆で彩色する際の閃きによって表情を描くため、どれ一つとして同じものはないとか。
さらに、『多幸招き猫』の魅力はその作り方にもあります。
「人形の型そのものも私が作っています。複雑な造形の人形は、通常なら2つか3つの型を組み合わせて作るんですが、この『多幸招き猫』は1つの型のみで仕上げています。型から外したときにイメージ通りの形になるか、また、引っ掛かりなくスムーズに型を外せるかなどを考えながら展開図を頭の中で組み立ていく。難しいですが、人形作りのおもしろさでもあります」

成形するときには、その日の気温や湿度によって粘土の水分量を調整し、窯で焼き上がった人形に色付けする際には配色にも気を配る。そして井上さんがなによりも大切にしているのは、心を込めて作ること。丁寧に仕上げられた『多幸招き猫』は、受験を控えたお孫さんや家を新築した友人への贈り物として、あるいは自分自身のお守りとして、多くの人の手に渡っています。

「皆さん、それぞれの思いで迎えてくださいます。大切なのは、手に取ったときに心惹かれるかどうか。飾るときには、ぜひ人形と目が合うところに飾ってほしいですね。そうすることで人形への愛着も深くなるはずです」
さて、実際に私も『多幸招き猫』の白と黒を一体ずつ、自宅へ連れて帰りました。
白猫から感じる、なにかしらの強い意志。黒猫は目を大きく見開き、考えを巡らせているようにも見えます。一方、猫の背中におぶさっているタコの表情はとてもチャーミング。それらのギャップにたまらないかわいらしさを感じます。


大きさは、どちらも高さ10センチほど。黒猫の方には鈴が仕込まれており、手に取るとカランカランと優しい音が響きます。玄関に飾っても、リビングの飾り棚に置いても、何気ない存在感を添える『多幸招き猫』。井上さんのアドバイス通り、目が合う場所に飾ってみると、眺めるたびに心が穏やかになっていくのを感じます。

さらに嬉しいのは、猫だけでなくタコも手で福を招く仕草をしていること。
最初は、インパクトあるその姿に驚きましたが、見ているうちに「これで私も幸せに恵まれるかも!?」とポジティブな気分に。目が合うと、その姿や表情に癒されていくようで不思議な魅力を感じます。これもきっと、一体ごとに井上さんの願いが込められているからでしょうか。『多幸招き猫』は、皆さんにたくさんの幸せを運ぶ人形。笠岡に行った際には、ぜひ手にしていただきたい作品です。
「連れ帰った人形が欠けてしまった、と連絡をいただくこともあります。そのときには必ず修理させていただくんです。完全に元通りにとはいきませんが、大切にしている人形だからこそ、できる限りの手を尽くします。そうすると、持ち主も本当に喜んでくださるんですよ。
人形との出会いも縁です。私たち夫婦が一体の招き猫に出会って人生が大きく変わったように、皆さんにとっても、人形との出会いが暮らしに少なからず影響を与えるかもしれません。心惹かれる人形との縁を大事にしていただきたいですね」

現在、『多幸招き猫』は「瀬戸の古猫庫」の1Fにあるギャラリーで販売しています。
出会えたときには、ぜひその表情をじっくりと見つめてみてください。きっと自分だけの「縁」を感じられるはずです。
瀬戸の古猫庫
住所:〒714-0033 岡山県笠岡市大島中2405
電話番号:0865-75-0515