瀬戸内産のレモンを使用!海辺の工房で作られる「檸檬ぷりん」
ここは広島県尾道市向島。
尾道水道を挟み、商店街やカフェなどが並ぶ本土の対岸にあるこの島は、ここ数年、移住希望者から大きな注目を集めています。瀬戸内の穏やかな海に囲まれた向島にはゲストハウスや隠れ家的なレストランなど、日常から少し距離を置き、のんびり過ごしたい方におすすめのスポットが点在します。ライターの私も度々訪れ、静かな波音にしばし癒されています。
その向島で40年以上にわたり、果樹栽培やそれらを使った加工品製造を手掛けているのが、今回の目的地「万汐農園(まんちょうのうえん)」。
海を望む果樹園には、尾道の特産品いちじく「蓬莱柿(ほうらいし)」の木が並び、9月から始まる収穫の時を待っています。
さらに、海辺に建つ工房からは、爽やかな柑橘の香りが漂います。仕込んでいたのは、今回ご紹介する『檸檬ぷりん』。瀬戸内の島で育ったレモンをふんだんに使用した「果実ぷりん」です。
素材の美味しさを伝える。生み出した加工品は50を超える
お話をお聞きしたのは、万汐農園の代表、濱浦 志保香(はまうら しほか)さん。
お父様の代から果樹栽培を行っているとのことで、まずは当時の様子を伺うことに。
「父が若い頃は、この島で海苔の養殖を行いながら、柑橘や除虫菊なども栽培していたようです。その後、農業だけに舵を切り、柑橘を育てながら、隣の三原市で梅の栽培も始めました。
私が父を手伝うようになったのは40年ほど前から。学校で農業の知識を身につけ、いちじく栽培を行ったのが就農の第一歩です。現在手掛けている梅といちじくの栽培は、父と私がつないできたものなんです」
いちじくの栽培をきっかけに、農業に関わるようになった濱浦さんですが、就農1年目からすでに加工品も作っていたそうです。
「栽培はうまくいったものの、どうしても規格外のいちじくが手元に残ってしまったんです。天塩にかけて育てた実を処分するのはもったいないですし、なんとか有効活用できないかと思い、始めたのが加工品作り。いわゆる6次産業ですね。最初に作ったのはジャムでした」
いちじくだけではなく、梅園で実った梅などを材料にした加工品の種類は次第に増え、現在ではジャムの他に、プリンやジュース、羊羹など、その数は50を超えるとか。また、OEM製品(※1)やスーパーのプライベートブランド商品なども受注生産しているそうです。
「向島やこの周辺の島々で栽培された柑橘や果物など、この土地で育まれた味を活かして商品を作りたいと思っているんです。素材そのもののおいしさを伝えることが、商品の価値につながるはずですから」
(※1)他企業の依頼を受けて代わりに製造した製品
ただ、数々の商品を開発してきたといっても、1つ完成させるまでには最低でも5年の月日を費やしたとか。味は当然のこと、パッケージや価格、消費者に認知してもらうためのプロモーションなど、大変なことも山積みだったそうです。
「でもね、スタッフと話をしながら作っていく過程は、楽しい時間でもあるんですよ。『楽しむ』ということは、果物の栽培にも商品作りにも欠かせないと思っています」
お話をお聞きするにつれ、発想力やチャレンジ力などを糧に、パワフルに活動する濱浦さんの熱意が伝わってきます。
5年の歳月をかけて完成した「檸檬ぷりん」
万汐農園は「自然農法」による果樹栽培にこだわり、化学肥料や農薬は完全不使用。自然の恵みに感謝し、向島の環境そのものにも配慮した栽培に力を注いでいます。
「果物を育てていると、樹そのものがいろんなサインを送ってくれるんです。実を色付かせたり、葉を落としたり、言葉ではないものの、私たちにどうしてほしいのかを語りかけている気がします。長く農業をやっていますが、いまだに発見も多く、学びの連続です」
商品作りには、「常にアップデートも大切」と話す濱浦さん。同じ果物でも、収穫期や樹それぞれが持つ特性によって味に違いが生まれます。それをもとに、お客様が求めるおいしさを再現するため、毎回レシピをベースに微調整を行っているそうです。
今回ご紹介する『檸檬ぷりん』もそんな過程を経て作り上げられた商品。
プリンといえば、一般的なものに加え、抹茶やカボチャ、マンゴーなど個性の強い素材を使用したものは目にしますが、果物を使ったプリンはかなり珍しいと言えます。
「この商品は、お子さんや若い方にも食べていただきたいと思って開発したんです。その世代には乳製品を好む方が多いので、ヨーグルトのような味わいも表現しています」
「果実プリン」は、檸檬、八朔、夏蜜柑などの柑橘をはじめ、薔薇の花びらを材料にしたものなど全部で8種類。中でも人気を博しているのが、レモンの酸味が爽やかな『檸檬ぷりん』です。
乳製品らしさを出すために、生クリームに近い素材が使われています。
「卵と牛乳自体は使っていません。(※2)それは傷みやすさから起きる食中毒を防ぐためです。さらに、卵を材料にした場合、その存在感が強すぎて、フルーツの味わいが損なわれてしまうという理由もあります。
ただ、『檸檬ぷりん』の開発は思った以上に難しかったですね。当初は、酸味が原因で表面に水分が浮いてしまったり、発酵してしまったりという問題も起こりました。これでいい、と思える商品が完成するまでには、やはり5年かかりましたよ」
(※2)一部に乳成分、卵、大豆を含む
実は開発の難しさから、一度は商品化を諦めたという濱浦さんですが、瀬戸内の代名詞ともいえるレモンを使ったプリンへの思いが絶えることはなかったようです。
初めての食感!ムースのような滑らかさとレモンのつぶつぶ感
「瀬戸内ブランド」にも登録されている『檸檬ぷりん』。
手のひらサイズの小瓶に入り、金色の蓋が印象的。瓶詰めにされた後に熱殺菌を施すため、蓋を開けた際、ポンッというかわいい音が響きます。もちろんこの殺菌のおかげで、賞味期限は常温でも6ヶ月という長さです。
それでは万汐農園さんの『檸檬ぷりん』、早速いただいてみます。
口に入れた瞬間、フワッと抜けるレモンの爽やかな香り。
果肉の甘さとシュワっとした酸味のバランスが丁度良く、食べる程に口の中がさっぱりしていくのでどんどん食べ進んでしまいます。よく見ると細かく刻んだレモンの皮が入っており、つぶつぶとした食感と皮らしい優しい苦みがとてもいいアクセントになっていて美味しいです。
そしてこの特徴的な食感。プリンならではのプルっとした柔らかさもありつつ、舌でつぶすとトロリとまろやかな口当たりに。まるでヨーグルトやムースを食べているような滑らかさ、こんな食感のプリンは初めてです。
プリンの牛乳臭さが苦手な方には是非試していただきたいです。
また、アレンジして食べるのもおすすめなんだとか。
「ジャム代わりにトーストに塗ってもおいしいんですよ」と濱浦さん。ちょっと贅沢な気もしますが、試してみる価値ありですね。
さらになじみマガジンのスタッフが凍らせて食べてみたのですが、レモンのシュワっと爽やかな風味と、カチカチになりすぎないシャリっとした食感が合わさってまるでシャーベットのように美味しく食べれたそう。暑い日におすすめしたい食べ方です。
さて、果樹栽培と加工品作りに情熱を注ぐ濱浦さんですが、人との出会いを大切に、楽しむことを忘れず、これからも活動を続けたいと話します。
さらに、新たな商品開発への意欲もますます膨らんでいるよう。「どんな商品なんですか?」との問いに、「シークレットです!」と微笑む表情には、明るいエネルギーが満ちています。
現在、『檸檬ぷりん』は、通販サイト 楽天市場、Amazon、公式ホームページの他、県内50店舗を超えるスーパー、道の駅、サービスエリア、宿泊施設などで購入できます。その一部は下記の通りです。
- 広島県内:ええじゃん尾道、道の駅 クロスロードみつぎ、道の駅 みはら神明の里、せらワイナリー 等