
創業100有余年、老舗乾物店の肝入り商品「ちりめんアヒージョ」
江戸時代から明治時代にかけて主に日本海側を航路にして物流を担った「北前船」。
北は北海道から南は山口県の下関までさまざまな物や文化を乗せて行き交い、その行程で瀬戸内海の交易拠点として栄えたのが尾道です。
「北前船」によってこの港に運ばれてきたのは、昆布や干し魚、米や酒など。同時に尾道からは、近隣各地で生産された塩や木綿、醤油などが船積みされました。

その際、物資の受け入れや保管、販売を仕切った商人たちは「浜問屋(はまどんや)」と呼ばれ、尾道を港町として大きな繁栄に導いたといわれています。また、そのなかでも特に有力な商人は「浜旦那(はまだんな)」と称され、彼らは神社仏閣の建立や伝統文化の発展に寄与し、当時の名残は情緒ある街並みに今なお色濃く残っています。
尾道が「北前船」で賑わった時代から「浜問屋」や「浜旦那」によって商いされていたのが、瀬戸内海で獲れるちりめんです。当時、全国の相場を決める重要な拠点でもあった尾道の港には、一年でわずか半月の漁獲時期を目当てに多くの漁船が潮待ちしていたといわれています。
水揚げされたちりめんは「浜問屋」に集められ、そこから港町に数多くあった乾物店へ。さらに乾物店から各家庭や飲食店に届けられたそうです。

尾道で決まっていたなんてビックリ!
今回訪れたのは、その乾物店の一つ「藤本乾物」。
尾道でも指折り、創業100年以上の歴史を持つ老舗です。現在、3代目を継承する藤本 有史(ふじもと ゆうじ)さんに店の歴史を伺いながら、藤本さん自ら開発した肝入りの商品、『ちりめんアヒージョ』について詳しくお聞きしました。

歴史を感じる木の看板が目印です

お店の正面には大きな干物が!!
若い世代にも乾物を食べて欲しい!それが新商品開発のきっかけ
店の創業時、藤本乾物が建つ海岸通りを中心に、尾道のあちこちに海産物を中心とした乾物を扱う店があったそうです。
「当店は、北海道沿岸で獲れる時鮭(ときしらず)※1本から商売を始め、次第にちりめんやいりこ、魚の干物、昆布など多くの乾物を取り扱うようになったと聞いています。当時は行商人も多く、それらの商品は尾道市内の北部や市外の家庭一軒一軒にも届けられたそうです」
※春から夏にかけて水揚げされる産卵前の鮭のことで、脂のりの良いのが特徴

今でこそ、冷蔵・冷凍技術が進化し、いつでも同じ海産物が手に入る時代ですが、当時は、魚の乾物といっても、そこから季節を感じることができた、とも藤本さんは話します。
「ちりめんが獲れる時期は春と秋の年2回、いりこは夏から秋にかけて、また、尾道の名産品『でべら』(タマガンゾウヒラメ)は冬の風物詩。その時々で旬の魚をいただくのが、本来はもっともおいしい食べ方です。お客様に季節の味を楽しんでもらうことが商いに携わる者の役割だと思い、これまで商売を続けてきました」

尾道ならではの乾物ですね
100年以上の歴史を持つ藤本乾物には、瀬戸内海はもちろん各地の乾物を求めて、多くの常連が足を運びます。なかには親子3世代にわたり訪れるお客様もいるそうです。
「地元の方や飲食店など、なじみのお客様とは話も弾みます。もちろん、観光客が立ち寄られたら、海産物の話をはじめ、尾道の歴史や観光スポットにまで話が及ぶこともあります」

映画のロケ地でも使われました

観光地、尾道の景色も少しずつ変わりつつあります
尾道の商売人は、観光地の顔としても位置付けられているようです。
とはいえ、時代とともに乾物店の軒数は減少の一途を辿り、今では市内に二十数軒を数える程度に。その理由はいくつかあるようですが、大きく影響しているのが後継者不足です。加えて、年々顕著になる漁獲量の減少や、大型スーパーが立ち並ぶようになり小売店が減ったことによる流通構造の変化も理由です。
「私たちの業界規模は目に見えて縮小していっています。それも影響してか、食習慣自体も大きく変化し、近頃ではちりめんが食卓に上ることも少なくなりました。特に若い世代には、幼い頃から食べる習慣がない方も多いようですね」
栄養価が高く、手軽にそのままを炊き立てのご飯に乗せていただくだけでもおいしいちりめん。「そのちりめんを若い世代にもっと食べてほしい」。藤本さんの想いが、新商品開発へと導きます。
お酒のお供にピッタリ!夜に食べたい「ちりめんアヒージョ」
「まず開発したのが、ちりめんとオリーブオイル、そこに瀬戸内海の岩城島(いわぎじま)のレモンピールを漬け込んだ『ちりめんオリーブ』、それから、桜えびでアレンジした『桜えびオリーブ』の2種類です。どちらもカリッと焼いたバケットにトッピングすると絶品の味わいで、若い方にも楽しんでもらえる商品です」
藤本さんが少年の頃、お父様を手伝い、船で乾物を届けていた岩城島。
そこで出会った島のおじいさんやおばあさんたちからお土産にともらった味わい深いレモンを、瀬戸内産のちりめんや桜えびのおいしさとともに届けたいと思ったのが開発のきっかけだった、と藤本さんは話します。
そしてその後、お酒のお供に適したさらにパンチの効いた商品を、と作ったのが今回ご紹介する『ちりめんアヒージョ』です。

「ちりめんに、オリーブオイル、ニンニク、唐辛子を加え、ワインやビールにも合うおつまみ系の商品が完成しました。味付けはシンプルに塩が中心ですので、パスタにトッピングしたり、冷奴にのせたりするのもおすすめです。私は、熱々のご飯にのせて食べるのが好きです」
藤本乾物は食品問屋も兼ねていることから、食品メーカーとのつながりもあり、商品開発に欠かせない良質な素材が手に入ることが強み。イタリア産と国内産をブレンドした風味豊かなオリーブオイル、国内産の香り高いニンニクや唐辛子など、厳選された素材の良さは折り紙付きです。それらを、瀬戸内で水揚げされたちりめんと合わせれば、最強のおいしさが生まれるのも納得です。
調理工程では、まずちりめんをよく炒め、食感を良くしてからオリーブオイルに漬け込みます。さらにそこへ、素揚げしたニンニクスライスを加えることで、香りも旨味もより豊かなアヒージョに仕上げています。

「ラッピング紙にも書いているんですが、この『ちりめんアヒージョ』は夜に食べていただきたい商品なんです。お好きなお酒と一緒に、ちりめんのおいしさをじっくりと実感していただきたいですね」

ニンニクの風味、ちりめんの塩味が圧倒的なおいしさを演出
この『ちりめんアヒージョ』は、内容量90gで手のひらサイズの瓶入り。多すぎず少なすぎず、おつまみにもぴったりのサイズ感が魅力です。
瓶にラッピングされている青地の紙には波を模した「ちりめん」のイラストが描かれ、ちょっぴりシュール感も漂います。

誕生ストーリーが書かれています
今回は、藤本さんがおすすめする、バケットのトッピングとしていただいてみます。
まずは、バケットを薄くスライスしてトースターでうっすら焼き色がつくまで加熱。そこに小さじ1程度の『ちりめんアヒージョ』をトッピングします。すると、ニンニクの香りがふわっと広がり、思わず食欲をそそります。

これは絶対おいしいやつ
ではさっそく。バケット表面のカリッとした食感と、オリーブオイルが浸みたところのしっとりした食感が絶妙に重なり、そこにメインであるちりめんの塩味が絡み合います。「おいしい!」。一口食べた瞬間に思わず叫んでしまうほど、旨みも圧倒的。追いかけてくるニンニクの風味と、ピリッとした唐辛子もいいアクセントに。
全体的に食感、風味のバランスの良さが際立ち、口の中に贅沢な味わいがあふれます。癖になるおいしさとはまさにこのこと。気づけば、一緒にいただいていた白ワインもついつい進み、アヒージョのせバケットとのループが止まりません…。ちりめんがまさか、こんなモダンな味わいに変身するとは驚きです。
ちりめんの新たな楽しみ方を提案する逸品、その圧巻のおいしさにリピート間違いなしです。
パスタ、冷奴、熱々のご飯など、次の展開にも期待大。食材問わず、バリエーションに富んだ楽しみ方ができそうです。

お箸が止まりません
さて、「でべら」を模した着ぐるみに身を包み、尾道のニューヒーロー「でべらーマン」としても活動している藤本さん。尾道で水揚げされるでべらのおいしさを伝えつつ、かつて北前船の交易拠点として繁栄した尾道の歴史も伝承しようと、地元のイベントなどにも積極的に参加しています。
さらに、今や尾道でその技術を持つのは藤本さんただ一人という「おぼろ昆布職人」としても有名です。
「昔から伝わっているものを大切にし、後世にこの豊かな食文化をつないでいくことが、私の目標ですね」
月に一度は店頭での乾物販売も行う藤本さんは、インバウンドを含めた観光客とのやりとりも楽しみの一つだと話します。
「これも小売店の良さですよね。今流行りの無人レジだとこうはいきません。お客様の好みや興味に合わせて季節のおいしいものをご提案する。これが昔ながらの商売の面白さでもあります」

現在、『ちりめんアヒージョ』は藤本乾物の店頭のみで販売中です。
皆さんも尾道に訪れた際にはぜひ店を訪れ、藤本さんとの会話も楽しんでみてはいかがでしょうか。尾道の人の魅力も感じていただけるはずです。