
【コーヒーカシュー】尾道の老舗コーヒー店が作った絶品スイーツ
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あんこを炊く窯や煎餅を焼く機械が並ぶ8畳ほどの広さの工房には、朝早くから甘い香りが漂います。
人ひとりがやっと座れる小上がりで『どら焼き』の皮を焼くのは、この店の主人、近藤 修司(こんどう しゅうじ)さん。菓子職人になって40年が経ちます。
毎日、店頭に並ぶ『どら焼き』には熱烈なファンも多く、10個、20個とまとめ買いする方も珍しくないとか。その理由は、「昔懐かしい味わい」にあります。甘いあんこと、しっとりした皮。そのほっとするおいしさに魅了されるようです。
近藤さんが営む近藤菓子店は、広島県尾道市の北端に位置する御調町(みつぎちょう)にあります。
戦国時代から江戸時代にかけて栄えた銀山街道には、古くからの商店が並び、今もその風情を感じることができます。また、昔から農業を中心に栄えたこのまちは、柿の栽培でも有名。干し柿をカーテンのように吊るす風景は、季節の風物詩となっています。
そんなのどかな御調町で、まちの移り変わりを見守ってきた近藤菓子店。今回は、御調町の名物でもある逸品、『どら焼き』をご紹介します。
「店の詳しい歴史は聞いてないんですよ」
近藤さんは、穏やかな表情でそう話します。ただ、記憶の中にははっきりと、ご両親がこの場所で和菓子を作っていた姿が浮かぶそうです。
当時の一番人気は「みつぎせんべい」。もちろん、今でもそれを求めて店に足を運ぶ人も多いといいます。小麦粉や砂糖など、シンプルな素材を合わせた生地を作り、1枚1枚丁寧に焼き上げる煎餅は、地元の人なら誰でも一度は口にしたことがあるほどの銘菓。
さらに当時の店先には、羊羹や緻密な細工が施された練り切りなど色とりどりの和菓子が並んでいたとか。甘いものが貴重だった時代、このまちにとって近藤菓子店はなくてはならない存在だったようです。
そして時代が過ぎ、店を継いでいたお兄さん同様、近藤さん自身も和菓子づくりの道へと進みます。
「私自身は和菓子作りに関わる気持ちはなかったんですが、気付けば同じ世界に足を踏み入れてましたね」
高校卒業後に隣町の老舗和菓子店に就職した近藤さんは、和菓子職人として歩み始めます。
饅頭やお餅などさまざまな和菓子作りに関わり、その技術の奥深さとおもしろさを感じたとか。そして、20代半ばで家業に入り、しばらくはお兄さんと共に近藤菓子店を盛り上げていきます。
その後、一人で店を切り盛りするようになった近藤さんは、店の商品を名物の『どら焼き』と煎餅に絞り、これまで変わらぬ味を守り続けています。
店の休みは、年に一度の元日のみ。「私一人にできることは限られていますから」と話しながらも、お客様にいつでもおいしいお菓子を味わってほしいという願いが、近藤さんを突き動かしているようです。
「『どら焼き』をメインに作っているのは、私が好きだから。こだわりというほどのものはありません。ただあえて言うなら、変わらぬ味を届けたいというのがこだわりですね」
近藤さんが作る『どら焼き』の皮の材料は、至ってシンプルなもの。小麦粉、卵、砂糖、ハチミツなどをしっかりと混ぜ合わせ、一晩寝かせた後、鉄板で1枚ずつ手焼きしていきます。鉄板の上の生地にフツフツと気泡ができ始めたら、裏返すタイミング。両面がきつね色に色付いたら焼き上がりです。
「1日に150個ほど作るので、皮は全部で300枚。これを毎日続けています」
皮の粗熱が取れたら、次にあんこを挟みます。近藤菓子店のあんこは自家製。熱伝導率が高い大きな銅鍋でじっくりと時間をかけて炊き上げるあんこは、ふっくらとしていてツヤも抜群です。サッと口の中で溶けていく優しい甘みを出すために、砂糖は白ざらめを使用。また、地下水を使っているためか、味わい全体がやわらかに仕上がります。
皮の焼き始めから、あんこを挟んで完成するまで、その時間はわずか20分ほど。できあがった『どら焼き』は近藤さんの手で丁寧に袋詰めされていきます。
賞味期限は、製造から5日。おいしいものをおいしいうちに食べてほしい、という思いからだそうです。
「何にも特別なことはしていないんですよ。材料も配合も、作る工程も昔と同じです。大切にしているのは、いつ食べても『おいしい』と感じていただくことですね。手軽に食べていただきたいので、価格も低く抑えています」
その言葉通り、近藤菓子店の『どら焼き』は1個140円(2025年9月現在)。これだけ手間暇を考えると、思いがあってこその価格なのだろうと感じます。
和菓子好きの私にとって、『どら焼き』は鉄板の一品。どのお店に伺っても、外せない和菓子です。
さて、近藤菓子店の『どら焼き』はいかに?
袋から取り出した『どら焼き』は、一般的なものよりもやや小振り。ぷっくりと丸みを帯びたフォルムは、あんこがたっぷりと挟まれているからです。
半分に割ると、丁寧に炊きあげられたツヤツヤのあんこに思わず目が釘付けに。
それではいただきます!
口に含んだ瞬間、ふわっと広がる優しい甘さに思わずにっこり。
昭和50年代に幼少期を過ごした私にとって、思わず「懐かしい!」と呟いてしまうほど、記憶のどこかに仕舞い込んでいた味わいを思い起こさせます。
しっとりとした皮からは、ハチミツの香りがふんわりと立ちのぼり、少し焦がしたようなどら焼き特有の風味がとっても美味しいです。
使い込まれた銅鍋でじっくり炊き上げられたあんこは、小豆の粒感がほどよく残り、ふっくらとした食感に仕上がっています。
蜜のような甘さがじーんと口の中に広がり、スッと溶けていく品の良い味わいがクセになりそう。
シンプルな材料、変わらぬ製法。
手間暇かけて作られる近藤菓子店の『どら焼き』、これが長年愛される理由なんだと感じました。
ひと口、またひと口と食べ進めているうちに、気づけばもう完食。
食べ終わったあとには、ほっと心がほどけるような、やさしい余韻が残ります。
緑茶やほうじ茶との相性も抜群で、つい2個3個と食べ進めてしまいそうになります。
「最近はよく、甘さ控えめが良しとされますが、私はどうかと思うんです。甘いからこそ、和菓子の本当のおいしさが伝わることもあります。だから、うちの『どら焼き』は、昔と変わらず甘めです」
ちなみに、取材の最中にいただいた、焼きたての『どら焼き』。こちらは皮がふっくらとしていて、地元産の新鮮な卵の風味をしっかりと感じられる味わいでした。
「お客様のなかには、1日置いて食べる方、冷蔵庫で冷やして食べる方など、それぞれこだわりがあるようです。でも、とにかくおいしく食べていただきたい。食べたらほっとできるような、そんな『どら焼き』を変わらず作り続けていきたいですね」
どこまでも熱心で、同時にどこまでも謙虚な近藤さん。その姿勢が味わいに現れているような近藤菓子店の『どら焼き』。取材の際にも、30個ほどまとめて購入する常連客の姿がありました。普段使いに、また贈り物にと、そのおいしさは広がり続けています。
御調町に立ち寄った際には、ぜひ一度味わっていただきたい逸品です。
現在、『どら焼き』は近藤菓子店の店舗と、道の駅「クロスロードみつぎ」でのみ購入することができます。
近藤菓子店
住所:〒722-0341 広島県尾道市御調町神104-9
電話番号:084-876-0113