備後地域で愛される逸品を知る。

2023.11.10 2023/12/09

【神石牛のステーキ】アメリカ大統領も食したブランド和牛の逸品

アメリカ大統領も食したブランド和牛「神石牛」

日本の三代ブランド牛といえば、松坂牛、近江牛、神戸牛ですが、広島にもそれらに引けを取らないブランド牛があります。「広島牛」、「元就」、「比婆牛」、そして「神石牛」。
中でも最も改良の歴史が長いとされているのが、今回ご紹介する『神石牛』です。

もともとは農耕のための家畜として飼育されていたものが、大正時代から種雄牛として広島県内外に広がり、その血統を受け継ぐ『神石牛』は、現在まで種牛・肉質両面で高く評価されています。
『神石牛』は、広島県神石高原町(じんせきこうげんちょう)で飼育されている黒毛和牛種、またはその精肉のことで、年間に約400頭しか出荷されていないため、「幻の和牛」とも呼ばれています。

『神石牛のサーロインステーキ』がお皿に3枚重ねられた写真
『神石牛』はとっても貴重な黒毛和牛なんです

標高500〜700mに位置する神石高原町は、夏は涼しく冬場は平均気温が氷点下にもなる雪深い地域です。
訪れたのは神石高原町湯木にある「入江ミート」さん。
2022年の日米首脳会談ではアメリカのバイデン大統領も食した『神石牛』を提供し、全国ニュースでも取り上げられた神石和牛専門店です。

入江ミートさんのお店の写真
入江ミートさんのお店
赤い文字の看板が目印です
入江ミートさんの店内写真
店内には美味しそうなお肉がずらり

県外にも多くのファンを持つ、職人が捌く「神石牛」

「肉質がやわらかく、口に入れた瞬間に溶けていく脂肪は、とてもさっぱりしていて甘味も感じる。それが『神石牛』の特徴ですね」
入江ミートのオーナー、入江昭(いりえあきら)さんはそう話します。

入江昭さんの写真
オーナーの入江さん
お忙しい中、取材に答えていただきました

貴重な『神石牛』の専門店である入江ミートには、県外のお客様も多いとか。取材に伺った日も、関東や関西から電話注文が入るほど。さらに休日ともなると、遠くは兵庫県や香川県からお店まで足を運ぶ方もいるそうです。贈答用として購入される方も多いと言います。

「『神石牛』を扱うお店は他にもありますが、ここが選ばれる理由の一つは『切り方の違い』だと思います。多くのお店は精肉の際に機械を使いますが、うちでは私が包丁で捌(さば)きます。自らの手で丁寧に捌いていくことが、肉のおいしさにも影響するんですよ」

すでにお孫さんのいる年齢の入江さんですが、今だに包丁一本で、できる限り精肉の作業を進めていきます。その様子はリズミカルでまさに職人。長年の経験で培った力強さもあります。

入江さんが肉を捌いている写真
繊細な技と力のいる難しい作業です

そんな入江さんと、『神石牛』との出会いはいつ頃なのでしょうか?

「このお店をオープンしたのは2001年ですが、高校を卒業すると同時に精肉の仕事に就きましたので、もう何十年も『神石牛』と共に歩んでいます。最初は親戚の店で親方のもと、肉の解体や捌き方など一から教わりました」

工業高校に通っていたという入江さんですが、家庭の事情で望んでいた機械系の仕事を断念し、精肉の道へ進んだと言います。ですが、元来の手先の器用さもあって、すぐに作業を任されるように。
その後さらに修行を積み独立。数年後に今の場所に入江ミートを開店することになったそうです。

逆境が新しい船出に。「神石牛」の一貫生産を実現

「ですが、忘れもしません。開店したその年の9月に『BSE問題』が起こったんです」

「BSE」とは俗に「狂牛病」とも呼ばれ、牛の神経系に感染する進行性の病気。記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。
1980年代から90年代にかけてイギリスで流行し、日本では2001年に最初の牛への感染が確認。人にも感染の可能性もあるとされ、BSE問題として社会を大きく揺るがしました。
そこに、企業による牛肉偽装事件の頻発も重なり、畜産業や精肉店などの食肉関連業、食品加工業や外食産業、スーパーマーケットまで巻き込む一大問題に発展。
当然、消費者は牛肉から遠ざかり、「牛肉が売れない」という状況がその後長く続きます。

店内に陳列されたお肉の写真
お肉屋さんにとっては大ピンチの出来事でした

「最初のうちは、それでも購入してくださる方が多かったんです。でも次第に影響が出始めました。『この状況をなんとかしないと』と思っていたときに、ある地元の肥育農家さんに出会ったんです」

当時、BSE問題で同じく経営に大きな問題を抱えていた肥育農家。牛1頭の価格がそれまでの4分の1にまで落ち込んだと言います。
その肥育農家で育てられた牛を全て購入することで、地元の畜産業界、そして『神石牛』の再起に取り組むことを決意したそうです。

「神石の肥育農家から仕入れた牛をうちで捌いて販売する。お客様にとって、地元で育った牛を食べることが一番の信用につながると思ったんです。おかげで少しずつですが、客足も戻ってきました」

「長年受け継がれてきた『神石牛』の歴史を閉ざすわけにはいかない」
これまで先人たちが積み重ねた功績への敬意、なにより『神石牛』のおいしさを知り尽くしているからこそ、「地元」でしかできない一手を講じたと言えます。

現在は息子さんが畜産にも関わっているという入江さん。お店で扱う『神石牛』の8割は息子さんが育てた牛だそうです。

牛舎の写真
神石の豊かな自然の中で牛たちは大切に育てられています
牛舎で飼われている神石牛の写真
艶のあるかっこいい和牛たちが沢山いました!

「息子は生まれながらの牛飼いなんでしょうね。私も幼い頃から牛を飼っていましたし、妻の実家も受賞歴があるほどの畜産農家。だから、両親から受け継いだDNAもあってか、高校、大学ともに畜産を学ぶ道を選びました。その後、人工授精師の資格も取って、今では繁殖から飼育まで全てできる農家として頑張ってくれています」

牛を育てる際には餌にもこだわり、地元の農家から譲り受けた稲わらを牛に食べさせているとか。その牛の糞尿は有機肥料となり元の農家へ。神石高原町で行う循環型農業も実現しています。
種付けに始まり、地元の餌で飼育し、精肉して販売する。全てを一貫して行えるようになったことは、入江ミートの品質の確実性をさらに高め、大きなアピールポイントにもなっています。

※ 肉用牛の生産は2つの農家が分業して行います。「肥育農家」は生後約9ヶ月になる子牛を購入し、食肉になるまで飼育する農家。一方、牛の種付けから出産、そして子牛が約9ヶ月になるまで育てるのが「繁殖農家」です。

とろけるおいしさ!「神石牛のサーロインステーキ」

神石の自然の中で大切に育てられ、入江さんの手で丁寧に捌かれた『神石牛』。
今回は、その中でも最高部位とされるサーロインをステーキでいただきます。

これぞ霜降り。細かいサシが満遍なく入り、とても美しい肉です。
熱したフライパンに静かに置いたら、中火のまま一旦放置。程よい焼き色が付いたら、ひっくり返してもう片面も同じように。
濃厚な良い香りが湧き上がってきます。

プレートに置かれた『神石牛のサーロインステーキ』
こんな大きなステーキ人生初です…!
見てるだけで美味しいのが分かります

ちょうど良い焼き具合に仕上がったら、まずは入江さんおすすめの「わさび醤油」で。
口にした瞬間、予想を遥かに超えるやわらかさと、脂肪のさらっとした口どけの良さに驚きです。同時に、肉の旨みと甘味が広がっていきます。
“とろけるおいしさ”とは、まさにこのこと。
醤油のコクが肉の旨みを引き立て、また、わさびの辛味がさっぱり感をさらに後押ししています。

肉の上に少量のわさびを乗せて、しょうゆに付けている写真
脂の甘みとわさびの辛味が相性抜群!

さらに「塩」でも。
今回使用する「塩」は、以前「なじみマガジン ONOMICHI」でも紹介したことがある尾道の備後茶量さんがつくった「天空の塩パピタ」。
自宅屋上に製塩所を作り、尾道向島の立花海岸で大潮(おおしお)の夜に毎月1,000Lの海水を自ら汲み上げ、完全天日干しでつくった「塩」です。
味が濃く、豊かな味わいが特徴のこの塩を、ほんの少しだけお肉に付けていただきます。
こちらは新鮮で良質な肉であることがダイレクトに感じられる食べ方。
塩が脂肪の甘みをさらに際立たせ、噛むほどに肉本来の旨みも存分に味わえます。
根っからの肉好きという方には、「塩」で食べることをおすすめします。

塩に肉を付けている写真
おいしさが…しみる…っ!

そして気付けば完食。
正真正銘、これまで食べた和牛の中でもNo. 1のおいしさ。脱帽です。
「今後、これ以上の和牛を口にすることができるのか?」
ふと、そんな思いも頭をよぎります。
ごちそうさまでした。

取材の最後に入江さんが語ったのは、職人としての葛藤と覚悟の想いでした。

「息子が育てた牛を私が捌いてみなさんに食べていただく。生まれた時から育ててますので、それが食肉センターに運ばれて大きな肉の塊となってお店に戻ってきた時には、なんとも切ない気持ちにもなるんですよ。
でもだからこそ、徹底して最後まで捌いて、みなさんにご提供することが私の仕事だと思っています。大切な命をいただいているわけですから」

肉をカットしている写真
最後まで心を込めて仕事をされているんですね

命を育て、命をいただく。
多くの人を魅了してやまない『神石牛』のおいしさは、種付けから精肉まで一貫して関わる入江さんご家族の実直な姿勢に裏付けされたもの。
ぜひ皆さんにもじっくりと味わっていただきたい逸品です。

現在、入江ミートの『神石牛』は通販サイト 楽天市場(ふるさと納税)、実店舗で購入できます。

お店の紹介

株式会社入江ミート
住所: 〒720-1812 広島県神石郡神石高原町油木甲3125-5
電話番号:0847-82-2567