
【温州みかん】柑橘の産地、生口島が生んだ完熟早生みかん
- くだもの
- 柑橘
- みかん
しまなみ海道の経由地である因島。
戦国時代からおもに瀬戸内海を行き交う船の監視役を担っていた、日本最大の水軍「村上水軍」の本拠地として有名なこの島は、柑橘界の大御所「はっさく」の発祥地としても知られています。
その果実のおいしさを広く世に知らしめるきっかけとして貢献しているのが、今や全国各地で販売され広島を代表するお土産でもある『はっさくゼリー』です。
淡いオレンジ色のゼリーの中に大粒のはっさくの実が閉じ込められた『はっさくゼリー』は、そのツルッとした喉越しや、はっさく独特の甘酸っぱくほろ苦いおいしさはもちろん、パッケージに描かれたシュールな「はっさくBOY」のイラストが印象深い商品です。
訪れたのは、『はっさくゼリー』を開発したJA尾道市 因島営農センター。
集荷場には箱詰めを待つはっさくがうず高く積まれ、爽やかな香りに包まれていました。
「糖度と酸度の合格基準値に達した上質なはっさくのみがこの集荷場に集められ、大きさごとに選別された後に箱詰めされます。このとき、皮にキズがあるものが選り分けられ、『はっさくゼリー』の材料となります」
そう話すのは、センター長の村上 裕一(むらかみ ゆういち)さん。
自身も因島に由来を持ち、一時期は祖父が所有する果樹園で、はっさく栽培を手伝っていた経験もあるとか。「因島産はっさくのおいしさを広めたい」という一心で、現在はJAの職員として栽培支援にも力を注いでいます。
そもそも瀬戸内海に点在する島々は、雨が少ない温暖な気候から柑橘栽培に適しており、現在は、ミカンやハルミ、不知火(しらぬい)やレモンなど数十種類にも及ぶ柑橘が育てられています。
なかでも、因島が「はっさくの地」として知られるようになったのは、江戸時代の終盤期である1860年頃まで遡ります。
当時、因島に古くから建つ「密厳浄土寺(みつごんじょうとじ)」の住職が、生家の畑で偶然に1本の木を発見し、それがはっさくの木だったとか。すでに島で栽培されていたさまざまな柑橘が自然交配を繰り返し、誕生したものだと言われています。
その後、1900年代前半頃から広まり始め、徐々に人気の柑橘に。同時に、栽培も因島から各地へと広がっていきます。余談ですが、「はっさく(八朔)」の名前は、8月の朔日(旧暦の8月1日・新暦の8月下旬〜9月上旬)頃から食べられることに基づいているそうです。
ビタミンCが豊富で、美肌効果や風邪予防も期待できるはっさくですが、栽培の本格化以降、月日が経つにつれ新たな品種の柑橘に押され、販売数が減少していったと言います。
「はっさくは他の柑橘と違い、酸味と苦味が特徴です。もちろん、そのはっさくらしさを好む方もおられますが、どうしても糖度の高い柑橘に人気が集中してしまいます。『はっさく発祥の地』として因島には栽培農家も多いですが、販売数が伸び悩みはじめたことを機に、はっさくそのものの人気につながればと、『はっさくゼリー』の開発に至りました」
さらに、『はっさくゼリー』誕生の経緯には、皮キズなどを理由に市場に出すことができない「下級品」と呼ばれる果実の有効利用にもあったそうです。
「下級品は、正規品に比べるとかなり低い価格で取引されます。ただ、苗木から果実が収穫できるようになるまで何年も掛けて育ててきた生産者にとっては、どちらも同じように手間暇を費やし栽培した果実であることに変わりありません。その下級品を利用して、なんとか生産者の収入向上に結び付けたいという目的もありました」
そして思案の末、はっさくを使った加工品として、子どもから高齢の方まで幅広い年齢層から親しまれやすい「ゼリー」の開発が決定。ジャム製造で有名な広島県竹原市に本社を置く「アヲハタ株式会社」に協力を依頼し、商品開発がスタートしました。
その後、プロの技術を持って商品化され、1991年に発売された『はっさくゼリー』は、果実そのもののおいしさを味わえるゼリーとして、徐々に人気を博していきます。
「発売当初は、JAの職員自ら地元の観光イベントや百貨店で試食販売したりと、地道な営業を重ねました。さらに、因島出身の女優さんや、ロックバンドがPRしてくださったおかげもあって、売り出した最初の年は3万個の売上だったものが、10年後には100万個、そして今では年間500万個近くの売上を誇る大ヒット商品に成長しました」
併せて、売上アップの一因となっているのが、パッケージの蓋に印刷されている「はっさくBOY」。そのシュール感漂うキモかわいい表情には、一度見たら忘れられないインパクトがあります。
ゆるキャラが流行り始めるよりも前だった当時、このキャラクターを採用した開発担当者の先見の明には脱帽です。
「このキャラクターに惹かれて、『はっさくゼリー』を手に取ってくださった方もおられるようで、『はっさくゼリー』を印象付けるのにはかなり効果的だったと思いますね」
現在も、アヲハタが製造を担っている『はっさくゼリー』は、一つ一つ手作業で皮を取り除いた果実をシロップ漬けにするところから加工がスタート。その実を少量のオレンジリキュールで香り付けしたゼリーで固めています。
「ゼリー全体の約3割をはっさくが占め、そのおいしさには定評があります。ですが、ここ数年は高齢化による担い手不足が原因で栽培農家が減少し、ゼリーに使用するはっさくそのものが手に入りにくい状況になっているんです。JAとしても、農家さんへの苗木の補助や防除にドローンを導入するなどの栽培支援を行ってはいますが、少しずつでもはっさくを栽培する新規農家さんが増えることを願っています」
さて、私が『はっさくゼリー』を初めて口にしたのは、すでに20年以上前。
このキモかわいいイラストに心惹かれたのと、なにより、甘酸っぱいはっさくを使ったゼリーというものが珍しく、手に取った記憶があります。
それ以降、瀬戸内の島々を愛する者として、何度食べたか数えきれません。もちろん、幅広い世代に喜ばれるお土産物や贈答品として利用することもしばしばです。
今回、レポートをするにあたり、改めてパッケージから観察。やはり「はっさくBOY」のシュール感がたまりません!
この「はっさくBOY」の視線の先にあるのは、キラキラと輝く瀬戸内の海なのか、もしくは日々懸命に育ててくれる農家さんなのか。とにかく、物思いにふけっているような表情が心に沁みます。
では、早速蓋を開けて、まずは香りから。
素材がはっさくということもあり、すっきりとした爽やかな香りが広がります。思い浮かぶのは、因島の斜面に広がるはっさく畑。そのオレンジ色がかった黄色の実に鼻を近づけているような印象です。
お皿に受けると、プルンとしたゼリーが涼しげで、中にはゴロっとしたはっさくの実が閉じ込められています。では、ゼリーとはっさくを一緒にすくっていただきます。
口に含んでまず感じるのは、圧倒的なはっさくの存在感。噛むと、甘みと酸味、それからはっさく特有のほどよい苦味が広がって、とにかく爽やかさ全開です。一方、それを包み込むゼリーは、程よく上品な甘さに抑えられ、はっさくの甘酸っぱい味わいをきわ立たせています。しかもそのやわらかでツルンとした喉ごしが、はっさくのシャキッとした歯ごたえと良い対比となり、絶妙なコンビネーションを生み出しています。味わいや食感など、どこを取っても、このバランスの良さは他のゼリーでは味わえません。これぞ因島の味、そして広島を代表する味です。
あっという間に食べ終えてしまった私がいつも抱える、「一つでは足りない…」問題。
このおいしさは、間違いなく後を引きます。皆さん、『はっさくゼリー』を召し上がるときには、ぜひ2つはご準備を。
ゼリーといえばとにかく甘いものを連想しますが、この『はっさくゼリー』はいい意味でその期待を裏切られます。
因島産はっさく独特の苦みとオレンジリキュールが少量入ったシロップの甘さが相まって、甘ったるさはまったく感じず、さらっと味わうことができます。この味わいは唯一無二と言っても過言ではありません。この独特の美味しさが広島土産で選ばれる理由なのかもしれません。
さて、数年前には『はっさくゼリー』の姉妹商品となる「はっさくシャーベット」をはじめ、「はっさくマーマレード」の販売も開始したJA尾道市 因島営農センター。その根底には、やはり深いはっさく愛があるようです。
「どの商品も、はっさくをもっと食べていただきたい、という思いから開発しています。はっさくにあまりなじみがないという方にも、これらの商品を入り口に、はっさくのファンになっていただければ嬉しいですね」
フルーツゼリー界の逸品、『はっさくゼリー』。皆さんも、ぜひ召し上がってみてはいかがでしょうか。
現在『はっさくゼリー』は、通販サイト Amazonや楽天市場で購入することができます。
また広島県内のスーパー各店、百貨店、物産品店、サービスエリア等で広く販売しています。広島県外では、東京銀座の「ひろしまブランドショップTAU」をはじめ、全国各地のスーパー等でも取り扱っています。